2016.03.14 11:36

小社会 作家、大江健三郎さんの恩師で仏文学者の渡辺一夫…

 作家、大江健三郎さんの恩師で仏文学者の渡辺一夫さんは、長く東大で教壇に立った。毎年の卒業式にはむろん感慨があったが、年を経るにつれ、それは深まっていったという。

 学校はまさに温室で、学窓を離れる教え子たちはそこで育った苗木のようなもの。温室の監理人たる自分には、寒風吹きすさぶ実社会の厳しさが分かるにつけ、送り出す苗木の運命が心配になるからだ(「僕の卒業式」)。

 大学生が苗木なら、中学生は地表から顔を出したばかりの小さな芽。それを育む学校は、もはや温室ではなくなっているのか。広島県府中町の公立中3年生が身に覚えのない非行歴に基づく進路指導の後、自ら命を絶った。

 誤った記録は訂正されずに放置され、担任も詳細を確認せず廊下で立ち話という進路指導を繰り返した。学校の調査から浮かび上がるのは、あしき前例踏襲や教員間の意思疎通のなさなど、寒々とした職員室の風景である。

 弱いなと思った苗木が巨木に育つことがあれば、どこへ出しても大丈夫と思っていた苗木がわけもなく霜にやられることもある、と渡辺さん。だから教育は難しい。だから日々の成長に目を凝らす、温かなまなざしがいる。

 卒業式の日。自殺した生徒の名前が読み上げられると、クラスの全員で「はい」と返事した。寒風に耐える苗木たちを包む「温室の監理人」を、学校現場に一人でも多く。そう願わずにはいられない。
カテゴリー: 小社会コラム


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