2016.03.12 16:36

小社会 ♪爽やかな朝靄の中を 静かに流れる川 透き通る…

 ♪爽やかな朝靄(もや)の中を 静かに流れる川 透き通る風は 身体(からだ)をすりぬけ 薫る草の青さよ…。岩手県大船渡市出身の歌手、新沼謙治さんが作詞、作曲した「ふるさとは今もかわらず」が発表されたのは2012年11月だった。

前年の3月11日に起きた東日本大震災で、太平洋に面した大船渡市には高さ23メートルを超える津波が襲い、人口4万人の港町は大きな被害を受けた。半年後、新沼さんは妻の博江さんを亡くしている。62歳、がんだった。

 そんなことが重なったにもかかわらず、フォーク調の歌には震災の爪痕や愛する人を失った苦しみを感じさせる言葉が全く出てこない。♪緑豊かなふるさと 花も鳥も歌うよ…と歌い上げる。

 震災時、55歳だった新沼さんは、故郷の情景を浮かべ作詞したという。幼時から心にある原風景だったに違いない。震災後、海水をかぶった場所から緑は消えたから、「草の青さ」「緑豊かな」のフレーズがまぶしい。

 3・11は、発生から5年の節目が過ぎた。やがて集中復興期間も終わるが、全国の世論調査では70%以上が復興は進んでいないと感じている。大船渡をはじめ以前の姿には程遠い。繰り返される〈ふるさとは今もかわらず〉は、一日も早くかつての姿を取り戻すことへの強い願いの表れなのだろう。

 東北にはこれから遅い春が訪れる。自然の営みが歌詞の通りになれば、復興という言葉が少しは実感を伴うのだろうか。
カテゴリー: 小社会コラム


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