2016.03.08 07:50

小社会 〈ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの…

 〈ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな〉(石川啄木)。〈ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの〉(室生犀星)。古里に対する愛憎をうたった作家や歌人は数多い。

 日本人の心のどこかに、「故郷忘(ぼう)じ難し」という思いが潜んでいるのだろうか。その全てが「ふるさと」という言葉に感傷的に反応したわけでもあるまいが、それにしても「ふるさと納税」の急速な広がりには驚く。

 古里や好きな自治体に寄付の形で納税すれば、税金が軽減される。おまけに自治体からは返礼の特典付きとあって、寄付額は過去最高に。高知県でも奈半利町に昨年、13億円に迫る寄付があった。人口割りでは日本一と聞けば、まずは喜ばしい。

 奈半利町では町内の1次産品の加工場を建設するなど、創意工夫で寄付を募り、地域に還元していくという。雇用創出などにもつながれば、いいことずくめのようだが、心配もある。要はふるさと納税が持続可能かどうかだ。

 人口減少に突入した日本の競争は、得する側があれば損する側もある「ゼロサムゲーム」の世界。現にふるさと納税した人は、居住地に払う税額は減る。今は好評の特典でも、強力なライバルも出てこよう。

 高級和牛にマグロ、カニ…。豪華さを競う特典合戦は既に過熱気味。古里が「言ふことなし」になるか「悲しくうたふ」ものになるか、長い目で見ていきたい。
カテゴリー: 小社会コラム


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