2016.03.07 14:33

小社会 〈壁のひゞ命のひゞや春霖雨〉桑尾黒潮子。「土佐の…

 〈壁のひゞ命のひゞや春霖雨(りんう)〉桑尾黒潮子。「土佐の俳句」(高知新聞社)に、こんな句を見つけた。前書きは「南海地震被害そのままなるを」。壁のひびは癒えることのない心の痛手。いつ崩れ落ちるか。不安を抱えながら修復もできず、春雨に降りこめられている。

 昭和の南海地震からどれくらいたって詠まれたのだろう。壁のひびは自宅か。作者は小学校長を歴任したというから、校舎の一部だったかもしれない。恐ろしい思いをした子どもたちの心に寄り添って生まれた句であろうか。

 「被害そのままなるを」は東日本大震災も同じ。そんな中でもたくましく、懸命に生きる子どもたちが先日の本紙で特集されていた。あの日。妊娠7カ月で車ごと黒い津波にのまれた母親から、その後無事に生まれた子。

 避難所で配られた食料やペットボトルの水を、歯を食いしばって自宅へ運んだ子。津波で流された家の跡で思い出の品を必死に捜していた子。その一人一人が5年後の今、好きなスポーツに熱中し弟や妹の面倒もよく見るお兄ちゃん、お姉ちゃんに成長していた。

 つらい体験を受け止めて「命のひび」を少しずつ埋めてゆく。紙面からこぼれるような子どもの笑顔に、どれほど勇気づけられることか。

 被災地では多くの学校で、仮校舎や他校の間借りが続いている。学びやのひびを修復するのは大人の仕事。5年で「風化」などと言ってはいられない。
カテゴリー: 小社会コラム


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