2021.10.14 08:00
【アフガン支援】人道危機は見過ごせぬ
実権を握るイスラム主義組織タリバンの暫定政権には女性や少数民族に対する人権侵害の懸念がつきまとう。アフガン国民の人道的危機を見過ごすわけにはいかない。国際社会が足並みをそろえて支援に関わり、対話で人権の尊重やテロ対応を促す必要がある。
タリバンが首都カブールを掌握して約2カ月たった。米駐留軍が8月末で完全撤退し、タリバンによる暫定政権が発足したものの、混迷はさらに深まっている。医療崩壊の恐れも膨らんでいるという。国連のグテレス事務総長は、経済崩壊の懸念も指摘している。
これまで行政が行き届かない地域の教育や生活を支えた国際機関、非政府組織(NGO)の活動も停滞。タリバン復権で支援国などが送金を停止した影響とみられる。
国民の困窮にも、暫定政権の機能は事実上まひした状態だ。米国がアフガン政府の保有する90億ドル(約1兆円)に上る資産を凍結したことで公務員への給与が支払えず、タリバンへの不信もあって公務員の職場復帰は進んでいない。
世界食糧計画(WFP)によると、1400万人が深刻な食糧不足で、320万人の子どもが栄養失調に陥る恐れがあるという。
こうした危機的状況を受けたG20サミットは人道支援を決めた。日本は年内に計2億ドル(約227億円)、欧州連合(EU)も10億ユーロ(約1300億円)を拠出する。早急に支援を行き渡らせる必要がある。
だが、当面の危機回避にめどが付いたとしても、国際社会が暫定政権とどう向き合うかという根本的課題で前進はみられなかった。議長国イタリアのドラギ首相は会議終了後、「政権の承認に関する議論は時期尚早だ」と総括した。
復権後もタリバンは女性の就労や教育を妨げ、少数民族への抑圧もみられる。人権侵害が続く状況では、国際社会がタリバンを政権として承認できないのは当然だ。その半面、有効な方向性を打ち出せなかったことは、G20の足並みがそろわない現状を映し出していよう。
首脳会議はオンラインだったが、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は出席を見送った。米国と経済や安全保障で対立を深めているが、テロ対策という共通のテーマでも温度差は隠せなかった。
米国が力によって促した西洋的な民主主義は20年たってもアフガニスタンに定着しなかった。タリバンが女性や少数民族の人権を尊重する国際的価値観を受け入れるには、国際社会の持続的で重層的な働き掛けが不可欠といえる。
月末にイタリアで開かれる対面式のサミットでも、アフガン情勢は主要議題となろう。参加国にはアフガン国民の安定につながる確かな議論を求めたい。