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2021.10.10 08:00

【ノーベル平和賞】報道の自由の危機映す

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 逆風にさらされるジャーナリズム活動への叱咤(しった)であり、激励と言えるだろう。
 今年のノーベル平和賞は2人のジャーナリストが受賞した。ロシア独立系新聞のドミトリー・ムラトフ編集長と、フィリピンのマリア・レッサ氏だ。強権政治に対峙(たいじ)する報道姿勢が評価された。
 今、世界で権力による報道への圧力、弾圧が強まっている。ノーベル賞委員会が2人への授与を「全てのジャーナリストの代表」としたのも、民主主義や人権の在り方に対する憂慮の表れだろう。2人の業績をたたえるとともに、表現の自由を守る決意を新たにしたい。
 報道活動への平和賞授与は第2次大戦後初めてとなる。ノーベル賞委員会は「表現の自由は民主主義や紛争回避に不可欠」と重要性を強調した上で、世界の現状に「民主主義と報道の自由が逆境に直面している」と危機感をあらわにした。
 極めて厳しい状況なのが受賞者2人が活動する国々だ。国際非営利団体、ジャーナリスト保護委員会によると1992年以降、ロシアで58人、フィリピンでは87人の記者が業務中に殺害されたという。
 ロシアでは独立系メディアが当局から「外国の代理人(スパイと同義)」に指定され、活動を制限されたり、閉鎖に追い込まれたりしている。ムラトフ編集長の「ノーバヤ・ガゼータ」紙は記者6人を次々に失いながらも、プーチン政権に臆せず調査報道を展開してきた。
 フィリピンのレッサ氏はニュースサイト「ラップラー」を経営し、容疑者の殺害を容認するドゥテルテ政権の麻薬取り締まりを批判。ソーシャルメディアが偽ニュースの拡散に利用される危険性も訴えてきた。
 国によって切迫度は異なるが、報道への締め付けは各国で強まる。米国のトランプ前大統領の登場が一つの転機だったろう。
 自身への批判を偽ニュースと切り捨て、会員制交流サイト(SNS)を通じ報道機関を攻撃した。誤った情報と事実に基づく報道の境が曖昧になれば、世論の操作はより容易になる。権力側にとっては極めて好都合だろう。多くの国が報道規制を法制化する動きを見せる。
 日本もそうした流れの例外ではない。2014年衆院選では自民党が在京各局に選挙報道の「公平中立、公正の確保」を求める文書を送付。15年にもNHKとテレビ朝日の番組内容について両局幹部を事情聴取している。
 19年には首相官邸が記者会見での質問を制限するかのような文書を出して批判された。報道規制を巡る権力側とのせめぎ合いは絶えず続いているといっていい。
 報道の自由はいとも簡単に侵害される。世界の動きをみれば実感せざるを得ないだろう。民主主義社会の維持、発展にはたゆまない努力が求められる。
 報道の自由は国民の知る権利と一体の存在だ。国民一人一人の関心こそが報道機関を支える力となる。

高知のニュース 社説

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