2021.10.04 08:00
【供給網の人権】経営課題として対応を
ビジネスの持続可能性を図る観点からも、人権への配慮はますます重視されよう。このまま目先の利益にとらわれ、欧米との差が開けば、日本の製品が国際市場で行き場を失うことにもなりかねない。早急な取り組みが求められる。
国連は2011年、人権対応の国際基準として「ビジネスと人権に関する指導原則」を決議した。これに伴い、欧米では企業に人権DDを義務化する法整備が進んでいる。
代表的なのは、中国の新疆ウイグル自治区で生産された「新疆綿」の取引規制だ。少数民族ウイグル族の強制労働が疑われるとして、欧米各国は新疆綿の輸入を規制している。
日本企業にも具体的な影響が及んでいる。米税関当局はファーストリテイリングの衣料品店「ユニクロ」に関し、男性用シャツの輸入を差し止める対応を取った。
同社は、人権侵害がないことは確認したと反論している。実際、米当局の対応には米中対立による政治的な影響も指摘されるが、人権DDへの対応が現実的に経営リスクであることは間違いないだろう。
日本の大手アパレルやスポーツ関連企業でも、10社以上が新疆綿の使用停止や使用量の削減など調達の在り方を既に見直したことが分かっている。ただ、全体としては対応が遅れている感は否めない。
日本企業は原材料調達だけでなく、生産拠点での技能実習制度にも国際社会から厳しい目が向けられている。米国務省は各国の人身売買に関する報告書で「外国人労働者搾取のために悪用し続けている」と批判した。
英国の人権団体が世界のアパレル企業など64社を評価した報告書では、日本企業5社のうち、人権リスクへの対応が「十分」だった企業はなく、2社は「何の措置も講じていない」と最低評価を受けた。こうした指摘を正面から受け止める必要がある。
日本企業はコスト増を嫌う傾向が強く、対応が進まない一因ともされるが、個別企業の取り組みには限界もある。新疆綿で独自の対応を取れば主要市場の中国で反発を受け、不買運動の標的にされる懸念もあるという。
政府も昨年10月に行動計画を策定したが、実際の対応は業界任せ、企業任せといっていい。政府や企業が足並みをそろえ、法律や業界ルールで日本の人権意識を明確にすることが重要になろう。
国際ビジネスの場では、ESG(環境・社会・企業統治)対応と経営を一体化した取り組みが避けられなくなっている。「周回遅れ」の対応のままでは、長期的に企業価値の低下につながる恐れがある。世界標準の対策を求めたい。