2021.09.25 08:40
「SDGs」高知県の企業に浸透 取り組み「前提」化、エコ製品に特需 性的少数者への配慮も
田中石灰工業の廃プラスチック燃料。SDGsの高まりとともに売り上げが伸びている (高知市五台山)
SDGsは、これまでの経済発展が環境破壊や新たな不平等を招いてきたという、国際社会の反省の上に2015年9月の国連サミットで採択された。
「貧困をなくそう」「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「気候変動への具体的対策」など、経済、環境、社会分野で30年までに達成すべき17のゴールが設定されている。
県は8月から「こうちSDGs推進企業登録制度」を始め、現在85社が申請中。7月に県が企画したSDGsセミナーには想定の2倍の300人が参加を希望するなど、関心が高まっている。
田中石灰工業(高知市)の廃プラスチックを使った燃料や、垣内(南国市)の有機肥料の製造装置がここ数年で売り上げを伸ばすなど、影響もじわり。高知の職場で新しい景色が広がりだした。
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SDGsが定めた17のゴールのうち、環境への配慮に関する目標は比較的取り組みやすいとされ、いち早く対応してきた企業を中心に特需が生まれている。2005年からプラスチック製品のリサイクルを進めてきた田中石灰工業は、特需を取り込んだ1社だ。
家庭ごみの廃プラを分別、固形化して「RPF」という燃料にして販売。石炭などに比べて二酸化炭素の排出量が少なく、プラごみによる海洋汚染の防止にもつながるという。
3年ほど前から、石炭を使っているセメント会社や大手製紙会社からの引き合いが強まり、販売量は2倍に増えた。田中克也社長(57)は「大量生産、大量消費の時代は終わると読み、約20年前から環境事業に主力を移してきた。うまく波に乗れた」と手応えをつかむ。
鶏ふんペレットを製造する装置群。売り上げが急増している(南国市岡豊町中島の垣内)
安岡和彦社長(69)は「SDGsにより農業界も、有機肥料も活用する方向にシフトしている」とし、5年後に年間10億円の売り上げを見込む。
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下請けが多い県内では、SDGsの取り組みは、今後の人材獲得や企業の成長にも影響しそうだ。
県内スーパーの採用担当者は「説明会では毎回、学生からSDGsの取り組みを聞かれる」と話す。「今の子は学校でSDGsを習う。もう、やっていることが前提なのだと受け止めている」
県中部の自動車部品メーカーは、取引先から、温室効果ガス排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」に取り組むよう要請された。「欧州連合が国境炭素税の導入を検討しており、各自動車メーカーが敏感になっている」と明かす。
取り組みは環境に限らない。
性的少数者への配慮から虹色にデザインした多目的トイレ(香南市香我美町下分の高知機型工業)
北泰子副社長(66)は「イノベーションは多様性のある組織から生まれる。人材確保にも、事業の成長にもつながる」と話す。
荒川電工(高知市)は19年、社内にSDGs委員会を組織。「つくる責任つかう責任」「質の高い教育をみんなに」の目標のため、国内で役目を終えた太陽光発電装置や蓄電池を、来年1月にフィリピンの電気のない島に送る。
荒川浩一社長(59)は「SDGsは目先の利益の話じゃない」と強調する。「SDGsは当たり前、という感覚。この視点がない企業は続いていかん時代になると思う」(竹内悠理菜)