2021.09.22 08:00
【中国TPP申請】加盟国の懸念を拭えるか
世界2位の規模を誇る経済大国の申請は、自由貿易の発展につながる期待もある一方で、実現には不透明さを伴う。
加入には全11カ国の承認が不可欠な上、貿易自由化などで高い水準を求められる。中国は一部の加盟国との間に対立を抱え、市場経済化にも課題が多い。申請の思惑はどこにあるのか。交渉を通じてしっかりと見極めたい。
TPPは貿易自由化の進展へ、農産品や工業製品の関税削減や撤廃にとどまらず、知的財産の保護など幅広いルールを定める。交渉過程で米国が離脱し、2017年11月に11カ国で大筋合意した。これまでに日本など8カ国で発効している。
加盟国には中国を主要な貿易相手とする国も多い。中国の加入は自由貿易を推進、拡大を図る契機にもなり得る。
しかし、習近平国家主席が昨年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で「積極的な検討」を表明して以降、参加国には戸惑いが広がった。英国が2月に申請した際の歓迎ぶりとは違いが大きい。ここに中国の抱える問題が浮かび上がる。
TPPはそもそも、米国が主導した経緯から巨大経済圏構想「一帯一路」などで影響力を誇示する中国への「包囲網」の意味合いを持つ。
離脱した米国は、トランプ前政権から国内保護の雰囲気が強まり、TPPに復帰する可能性は高くない。中国の申請はその米国不在を突いた形となり、包囲網に対する揺さぶりとの見方もある。
ただ、そうした不信感は中国自身が招いた側面がある。
加盟国のオーストラリアとの間では、互いに世界貿易機関(WTO)に提訴し合う対立に陥っている。きっかけはオーストラリアのモリソン首相が新型コロナウイルスの感染源に関して調査を求めたことだった。反発した中国は同国産品に次々と高関税を課す制裁措置を取った。
このほかにも、ベトナムとは南シナ海への強引な海洋進出に伴って領有権を争う。
TPP入りすれば、経済的な影響力を背景に外交や安全保障でも圧力を強めるのではないか。国の面目を巡って経済力を振り回したり、軍事力で脅したり、他国との摩擦をいとわない中国の姿勢に、加盟国が懸念を抱くのも仕方がないだろう。
中国は肝心の経済政策でも金融市場の開放やサービス業の外資規制緩和の一方で、IT業界への規制を強化するなど、TPPが求める自由化に逆行する動きを見せている。国有企業優遇や知的財産の保護といった問題の解決も容易ではない。
TPPの枠内では当然、加盟国との協調、ルールの順守が求められよう。中国は各国の懸念に向き合い、真摯(しんし)に応える責任がある。