2021.09.11 08:00

【米中枢テロ20年】軍事力の限界直視せよ

 米中枢同時テロから20年たった。巨大ビルに航空機が衝突する、信じがたい光景はその後、米国のみならず、世界の姿を大きく変えた。
 手負いの大国は首謀者ビンラディン容疑者率いるアルカイダなど「テロとの戦い」に突き進む。アフガニスタンの「米史上最長の戦争」、イラクでの「大義なき戦争」だ。
 米軍はアフガンから今年8月末で撤退した。戦争は一応の「終結」をみたとはいえ、現地に大きな傷痕と混乱を残した。軍事力の限界を国際社会は直視しなければなるまい。
 中枢テロでは旅客機4機が乗っ取られ、2機がニューヨークの世界貿易センタービルに、1機は国防総省に突っ込んだ。日本人24人を含む約3千人が犠牲となり、テロの非道さは世界に衝撃を与えた。
 ただ、当時のブッシュ政権が選択した軍事報復は、当初から正当性に疑問符が付けられた。
 アフガンの旧タリバン政権にビンラディン容疑者(2011年に米軍が殺害)の引き渡しを拒まれ、01年10月に空爆を開始。旧タリバン政権を崩壊に追い込んだ。
 続いて米国は、イラクがアルカイダと関係し大量破壊兵器を隠し持っていると主張。国連安全保障理事会の決議を経ないまま03年3月、英国などとの「有志連合」で開戦に踏み切る。結局、大量破壊兵器はなく、後に誤報と判明。国際法上の疑義に加え、戦争は大義も欠いた。
 いずれも圧倒的な軍事力により、短期間で報復を果たしたかにみえたが、米国は民主国家樹立という別の目的を持ち出し駐留を続けた。日本やドイツなどかつての成功体験から抜け出せなかったのだろう。樹立した現地政府の腐敗や宗派対立などで長期駐留の泥沼に陥った。
 イラクでは、米軍撤退後の力の空白に乗じ過激派組織「イスラム国」(IS)が一時台頭。住民は暴力による恐怖支配やテロにおびえ、米軍も掃討作戦で再派兵を強いられた。
 アフガンでも撤退決定後、崩壊させたはずのタリバンが復権した。暫定政権の閣僚にはテロ組織と関わりのある人物もいる。「テロの温床」に戻る恐れは否めない。米軍は戦禍の一方、この20年で現地に何をもたらしたのか。疑念は尽きない。
 米国は自国の国益を最優先したアフガン撤退で、同盟国の信頼を損ねた。国内では中枢テロ後、イスラム教徒への差別が表面化し、宗教や人種などによる社会の分断が進んだ。大国としての威信はかつてないほど揺らいでいる。
 日本への影響も小さくない。イラク戦争時、自衛隊は多国籍軍の武装兵員を空輸するなど、武力行使と一体化した活動を展開した。平和主義のタガが緩むきっかけだったといえよう。集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法が15年に成立し、安保体制は変質した。
 この20年を振り返れば、軍事力による他国の民主化など大国のおごりでしかあるまい。国際社会は混乱から何を見いだすのか。改めて国際秩序の在り方を問い直す必要がある。

カテゴリー: 社説

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