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2021.08.23 08:35

ただ今修業中 ナス農家・岡本晴佳さん(24)安田町

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自然薯の棚の下で「早く師匠のようになりたい」と話す岡本晴佳さん(安田町東島)

自然薯の棚の下で「早く師匠のようになりたい」と話す岡本晴佳さん(安田町東島)

“安田愛”いちずに貫く
 2年間の新規就農者研修を終え、7月に独立した。「不安と緊張でいっぱい。でも大好きな安田町で農業ができる。私、幸せです」と瞳を輝かせる。

 香川県坂出市出身。高知大学農学部1年時の夏、過疎や集落維持といった課題を学ぶため、安芸郡安田町の小川地区に滞在した。住民と話す中で感じたのは、人と人との近さ。「お互いのご先祖のことまで知ってるんです」と衝撃を受けた。

 その冬、町内で行われた「なかやま山芋まつり」に参加。翌年には、町内の食の魅力を発信しようと同級生4人で「安田の食応援隊」を結成し、アユの姿ずしや自然薯(じねんじょ)汁といった郷土料理を紹介する冊子を作った。その後も卒業まで、何度も町に赴き、生産者グループや農家とのつながりを深めていった。

 町への愛着が募り、いつしか移住を決意していた。しかし両親は、安田での就農に猛反対。「香川に帰ってやればいいじゃないか」と迫られたが、「安田以外で農業するなんて考えられない」。説得に2年を要したが“安田愛”をいちずに貫いた。

 ◆

 主に育てる品目はナス。「直感」で選んだそうだが、町産園芸野菜の主力とあって、安定した収入が見込めることも頭にあった。研修中は、ベテラン生産者の手島浩順さん(57)=同町東島=に教えを請うた。

 尊敬してやまない師匠に口を酸っぱくして言われるのが「木をよく見ろ」ということ。めしべの先の柱頭が出過ぎていたら肥料が多すぎる。花の色が薄ければ温度が低い…。花や葉を注意深く見れば、何が足りないかが分かるそうで「今はまだ難しいですけど、それが分からなければ一人前にはなれません」。

 疑問があれば、師匠にも臆することなくぶつけていく。「こわもてですけど、質問したら懇切丁寧に教えてくれて心強い。叱られたこともない。甘えすぎたらいけませんけど」。口ぶりは、まるで父親を語る娘のようだ。

 間もなく植え付けが始まり、来月末には実が採れ始める。収穫は来年6月末まで続き、収量も徐々に増す。休日のない長丁場は体力も消耗するが、手島さんは「生活がかかっちゅうき、気も張るはず。乗り切れるろう、頑張る子やき」。そう目を細めた。

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好きな言葉

好きな言葉

 ナス以外に手掛けるのが、12月に収穫する自然薯。出来栄えは「掘ってみないと分からない。まるでばくち」だそうで、ナスのことなら何でもござれの手島さんですら、小さかったり腐っていたりと思うに任せない。なかなかのくせ者だが「町の特産品ですから。生産者が減っている今こそ踏ん張らないと」と前向きだ。

 大学入学時は「卒業したら、とっとと香川に帰るつもりでした」と告白する。それが縁あって安田町に出合い、ついには就農。好きな言葉「人間万事塞翁(さいおう)が馬」そのものの人生だ。

 学生時代からの知り合いには世話がってもらっているそうで、かつて自分が応援した町が今、自身の応援団となってくれている。目標は「子どもたちに『憧れの職業は農業』と言ってもらうこと。安田の農業を引き継ぎたい」。新米農家の挑戦は始まったばかりだ。

 写真・反田浩昭
  文・植村慎一郎

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