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2021.08.12 08:00

【入管女性死亡】人権感覚の欠如に驚く

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 名古屋出入国在留管理局の施設に収容されていたスリランカ人女性が死亡した問題で、出入国在留管理庁が最終報告書を公表した。
 一般国民からは見えづらい入管施設内で、外国人がどう扱われているのか。国際的な人権感覚からかけ離れた、極めて不適切な実態が浮かび上がる。運営・管理の在り方を抜本的に見直す必要があろう。
 報告書などによると、亡くなったウィシュマ・サンダマリさんは2017年に留学生として来日後、在留資格を失って20年8月に収容された。21年1月から体調不良を訴え、3月に33歳で死亡した。
 なぜ、女性は適切な医療行為を受けられなかったのか。
 入管施設は本来、本国への送還までを過ごす「一時的な」収容場所と位置付けられる。ただ、送還を拒む人が増え、収容が長期化している。難民申請を繰り返す人も多い。日本の難民認定率が20年は1・3%と極めて低い現状も影響している。
 そうであるなら、健康状態の急変も想定すべきだろう。医療体制の整備は当然の責務だ。だが、死亡当日の朝から女性は血圧や脈拍が計測できない状態にもかかわらず、休日で医療従事者が不在で担当職員の判断で緊急搬送されなかった。
 組織内の情報共有にも不備があった。点滴や病院受診の希望は幹部に伝わっておらず、職員が内規に反し、現場で勝手に不要と判断し、報告しない運用が慣例になっていた。
 運営の在り方とともに、職員の意識にも問題があろう。
 女性は当時、収容を一時的に解く「仮放免」の2度目の申請中だった。体調不良の訴えに対し、職員には「仮放免許可に向けたアピール」と疑う意識があった。
 体調を悪化させている女性をからかうような発言も確認された。優位的な立場から人権意識に欠ける対応を取っていたのは明らかだろう。
 上川陽子法相は記者会見で「送還することに過度にとらわれるあまり、収容施設として、人を扱っているという意識がおろそかになっていた」と謝罪を口にした。しかし、事実が究明されたかには疑問が残る。
 報告書は、入管庁が外部有識者を交えて検証したとはいえ、十分な内容とは言いがたい。死因さえ特定できておらず、責任の所在を曖昧にしていると指摘する専門家もいる。
 同庁は、遺族が求めている死亡前の監視カメラ映像の開示には一部応じる姿勢を示したものの、全量開示や弁護士の同席は認めない。なぜ、全てを明らかにしないのか。人命が失われた事態をもっと重く受け止めるべきだ。
 入管施設での死者は今回だけではない。17年度以降で17人にも上る。
 先の通常国会では、長期収容の解消を図る入管難民法改正案の審議と女性の死亡問題が重なって紛糾し、政府、与党は法案成立を断念した。
 法改正に向けては入管施設で何が起こっているのかをつまびらかにすることが前提となろう。客観性を担保した形で再調査する必要がある。

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