2021.08.09 08:00
【東京五輪閉幕】大会のあり方を問い直せ
205の国・地域と難民選手団の選手約1万1千人が参加し、史上最多の33競技で熱戦を繰り広げた。
大半の競技は無観客で行われた。会場から国民の大声援が失われたが、日本は史上最多となるメダルを獲得し、目覚ましい活躍を見せた。
大会の1年延期を乗り越え、限界に挑んだ全選手に敬意を表する。本県から出場した女子シンクロ板飛び込みの宮本葉月選手の5位入賞にも、あらためて拍手を送りたい。
アスリートの国や人種を超えた競い合いは、テレビを通じてスポーツの価値を感じさせたはずだ。
一方で、この大会は近年の五輪が直面する課題も露呈したと言える。
酷暑の中での競技開催は「アスリートファースト(選手第一)」から逸脱していたのではないか。選手の熱中症や棄権も相次いだ。
そもそも7~8月の開催時期は、巨額の放送権料を払う米国テレビ局の意向があるとされる。
以前から五輪の行きすぎた商業主義は強く批判されてきた。
その問題は今大会を通じて、国際オリンピック委員会(IOC)の人々の安全よりも開催を優先するかのような強硬姿勢や、バッハ会長の国民感情を軽視した言動から、国内でもよく知られるようになった。
開催都市の過度な財政負担に各国の五輪の招致熱は冷え込んでいる。次回2024年大会の招致争いでは当初5都市が立候補したが、巨額の開催費用に住民の反発が強まった結果、3都市が撤退している。
「コンパクト五輪」をうたった東京五輪は、1年延期や新型コロナ対策の追加費用もあって、国や都などが要した関連経費は3兆円を超えるともされる。無観客開催となり、大会組織委員会が得たはずの約900億円のチケット収入も消えた。
肥大化した五輪のあり方を見直す時が来ていることは間違いない。
今大会で最大の懸案だった新型コロナ対策については、早急に検証する必要がある。
選手や大会関係者に関しては、ワクチンの無償提供や検査の徹底、行動管理が行われた。
一方で会期中、東京の新規感染者が初めて5千人を超えるなど、国内の感染は急拡大している。
菅義偉首相は「国民の人流は五輪前から増えておらず、五輪が感染拡大につながっているという考え方はしていない」と強調している。
しかし、五輪開催の祝祭ムードが人々の気の緩みにつながったとの指摘がある。政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長も「五輪があるということで、危機感が伝わりにくい状況がある」とする。
24日には東京パラリンピックが開幕する。パラ選手は重症化リスクの高い疾患がある人も多い。予定通り開催するのであれば、東京五輪での感染防止対策の不備を洗い出し、徹底的に改善することが急務である。