2021.08.08 08:00
【県最賃28円増】地域差の是正へ道筋を
新型コロナウイルスの感染が拡大する中でも積極的に賃上げする菅政権の意向が色濃く反映された。ただ足元の経済状況をみれば、コロナ禍で苦境に立つ事業者も多い。賃上げを主導した政府は、労働者の待遇改善を着実に進める環境整備に責任を負ったといえる。
政府は、厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会で議論が始まる前から賃上げ圧力を強めた。菅義偉首相が議長を務める経済財政諮問会議に中小企業の意識調査を提出。最賃引き上げの効果を強調しつつ、雇用を削減する企業は少ないと悪影響を否定した。
この流れを受け、中央審議会は全国一律で28円引き上げる目安を答申した。16年度から4年連続で3%を超えた安倍政権下の「官製賃上げ」でも24~27円だった。それを上回る目安額には今秋の衆院選をにらみ、存在感を示そうという菅政権の思惑が透けて見える。
しかし、当時とは経済状況が明らかに異なっていよう。コロナ禍で飲食業や旅行業などへの影響は深刻で、先行きも不透明なままだ。
同じコロナ禍の昨年は事実上、据え置きの判断だった。日本はほかの先進国に比べ最賃が安く、労働者の待遇改善が喫緊の課題とはいえ、「官製賃上げ」を超える「28円」引き上げの根拠には疑問も残る。
地方審議会でも目安額に対する見解は大きく割れた。労働者側は「引き上げてもセーフティーネットの水準には遠い」と訴え、一方の経営者側は「事業存続と雇用維持が最優先だ」と据え置きを強く主張した。それぞれの立場で、偽らざる主張だったに違いない。
最終的には目安通り、経営者側を除いた賛成多数で決まった。本県は都市部に比べ中小零細の事業者が多い。経営者側にとって、今回の目安額がいかに高いハードルだったかを示していよう。強引な官製賃上げのひずみが地方で浮き彫りになったといってよい。
コロナ禍で景気を好転させるのは容易ではないが、賃上げが負担となって倒産や雇い止めが増えては本末転倒というほかない。政府与党は経済対策の検討に入ったが、適切な支援策を講じる必要がある。
本県にとっては都市部との格差問題も残った。今回は全国一律の目安額で地域格差へ一定の配慮があったものの、最も高い東京との差は依然221円と大きいままだ。人口流出の要因にもなる格差をいつまでも放置はできない。
経済規模などで都道府県をランク分けする現行の仕組みは、地域間の格差を拡大させやすい側面を持っている。政府は地方再生に向け、格差を是正する道筋を示すべきだ。