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高知新聞PLUSの活用法

2021.08.04 08:00

【共通テスト改革】混乱招いた責任は重い

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政策決定過程のずさんさと強引さを強く印象付けた結論だ。
 文部科学省は、大学入学共通テストで英語の民間試験と記述式問題の導入を正式に断念した。大学入試改革の柱と位置付けたが、受験機会の公平性や採点の正確性を確保するのが難しかったという。
 だが、当初から教育現場では実現性を疑問視する意見が根強かった。入試は受験生の人生を左右しかねないだけに、現場の声を軽視して混乱を招いた責任は極めて重い。
 大学入試改革は安倍政権下、政治主導で進められた。出発点は2013年、安倍晋三首相(当時)の私的諮問機関「教育再生実行会議」が出した提言にある。
 「脱知識偏重」をうたって新テスト導入を打ち出し、国際社会で活躍できる人材を育成しようと「読む・聞く・書く・話す」の4技能を測る英語民間試験の活用を求めた。
 提言を受け、共通テストには民間試験活用とともに「思考力を測る」記述式問題が国語と数学で導入されることになった。
 しかし、改革の「2本柱」にはすぐに大学や高校の関係者から異論が出た。民間試験では地域によって生じる受験機会の格差をどうするか、記述式では50万人規模の試験で正確に採点できるのかといった疑問である。
 こうした声に押し切られる形で19年にはいったん導入が見送られ、文科省の有識者会議による再検討を経て断念という経緯をたどった。入試の必須条件である公平性と正確性を担保できないなら当然の判断だ。
 入試改革で中心に据えた思考力や表現力の重視は決して間違った視点ではなかったろう。問題は、教育現場などの声を軽視して、強引に推し進めた「政治主導」という手法にほかならない。
 当初、大学側への意向調査も行わずに、英語の民間試験導入など入試改革の方向性を決めていたことも明らかになっている。
 さらに、文科省が再検討時に行った国公私立大の各学部を対象にしたアンケートでは目玉である記述式導入に8割が、民間試験活用も7割近くが否定的意見だった。そもそも大学側にニーズがない改革を進めようとしていた実態を浮き彫りにした格好だ。
 そうした状況を把握したにもかかわらず、文科省は英語の民間試験と記述式問題の導入を各大学の個別入試で活用するよう通知した。活用状況によって補助金が増減する新たな制度も準備するという。
 共通テストと個別入試は規模が異なるとはいえ、導入断念の原因になった公平性と正確性の確保という根本的な課題は変わるまい。
 萩生田光一文科相は記者会見で「受験生に迷惑をかけたことを重く受け止める」と述べたが、補助金をちらつかせて大学に丸投げする対応に反省は見いだせない。
 強引なだけの手法は政治主導とは言わない。目指す入試政策を検討し直すべきだろう。

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