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2021.07.28 08:00

【黒い雨上告断念】幅広い救済を早急に

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 広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」を巡る訴訟の原告全員に被爆者健康手帳が交付されることになった。菅義偉首相は広島高裁判決に関し、上告断念を表明した。
 被爆者援護法の理念を重んじた高裁判決が確定する意義は大きい。首相は、訴訟に参加していない人も認定して救済できるように早期に対応を検討するとしている。救済措置の対象には長崎も含めるようだ。
 被爆者の高齢化が進んでいる。この訴訟でも提訴後に多くの原告が亡くなっている。幅広い救済を急ぎ具体化する必要がある。
 爆心地周辺の援護区域の外側に設定される特例区域にいた人は、特定の病気が発症すると手帳が交付される。原告らは特例区域のさらに外側にいたため交付されていない。
 高裁は、被爆者の認定は、放射能による健康被害が否定できないことを立証すれば足りると指摘した。特定の病気の発症を認定の要件とした一審判決から、さらに踏み込んだ判断を示した。
 訴訟は、手帳交付の事務を担う県と市が被告となった。区域の拡大で住民救済を求める県と市は一審判決時にも控訴を望まなかったが、制度設計した国の意向を受け、有識者検討会での検証と抱き合わせる形で控訴したいきさつがある。
 このため国は科学的検証を急ぎ結論を示さなければならなかったが、検討は思うように進んでいない。高裁判決を受け、県市は国に上告断念を訴えた。これに対し、国は区域拡大には科学的知見が必要として上告を働き掛けていたが、高裁判決が確定することになった。
 被爆者認定を巡り、科学的な根拠を重視するのは当然だ。しかし、時間の経過もあり健康被害を巡る因果関係が分かりにくくなっている。そうした状況にあるのに住民側に証明を求めるのは困難がある。高裁判決が、健康被害が生じる可能性があれば被爆者と認めるべきだとしたのは明快で受け入れやすい。
 これまで国が早期救済の姿勢を受け入れなかったことで、高齢化が進む被爆者の不安や負担を大きくした。被爆地の思いをくみ取り、県市などとの連携を密にしていれば、救済へきめ細やかな対応ができていたかもしれない。認定範囲を狭めてきたこれまでの姿勢を検証し、責任を明確にする必要がある。
 同時に、救済の要件や対象をどのように設定するのか、再設計を迫られている。首相談話は、原告について「一定の合理的根拠に基づき被爆者と認定することは可能だ」とする。それをどう広げるか。新たな線引きが、これまでと同じような苦悩を生むようなことはあってはならない。手帳の交付基準の変更を通して、援護対策の充実につながるように取り組むことが大切だ。
 この上告断念を巡っては、低調な内閣支持率の打開や、衆院選をにらんで政権浮揚を狙ったという見方も出ている。その評価は国民が行う。援護行政がどのように見直され、救済が広がるのかが焦点となる。

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