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2021.07.26 08:00

【防衛白書】対立軟化へ対話も探れ

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 2021年版防衛白書は、中国による台湾統一圧力が強まっていることに言及し、台湾情勢の安定が日本の安全保障や国際社会の安定に重要と初めて明記した。対立を深める米中関係の分析も載せた。
 4月の日米首脳共同声明は52年ぶりに台湾に触れ、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した。先進7カ国首脳会議(G7サミット)でも首脳声明はその表現を踏襲した。白書はこれらを踏まえた。
 中国が公表する国防予算は30年間で約42倍の規模に膨らんだ。透明性を欠いたまま、継続的に高い水準で軍事力の強化が進む。
 台湾への圧力も強めている。中国軍機は台湾周辺での飛行活動を活発化させている。台湾海峡「中間線」の台湾側への侵入や、台湾南西空域への侵入が増加した。
 これに対し、バイデン米政権は台湾への関与を深め、軍事面での台湾支援の姿勢を鮮明にしている。
 米中の対立激化により安全保障環境は激化している。こうしたことから、「中台間の軍事的緊張が高まる可能性も否定できない」と白書が分析する状況だ。
 中国が軟化する気配は見えず、米国が妥協するとも考えにくい。米中対立が強まる中、米側の対日要求も含めて日本の関与の在り方が問われることになる。
 22年度予算での防衛費増額の思惑もあるのだろう。岸信夫防衛相は「これまでとは抜本的に発想を変えた形も必要」と述べている。宇宙やサイバーなど新しい領域の課題も顕在化し、対応を迫られている。ただ、脅威と軍拡競争をするような向き合い方が、平和と安定に直結するとは考えにくい。
 専守防衛に徹することが基本だ。そして抑止の効果を十分検討する必要がある。防衛省のずさんな調査が発端となり、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備が断念に追い込まれたことは記憶に新しい。計画の是非以前に、取り組みに緊張を欠いているのではないかと疑念が膨らむ。
 防衛力強化を巡り、台湾有事を想定した意見も出ている。麻生太郎副総理兼財務相は、中国が台湾に侵攻した場合、集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法の「存立危機事態」として対処すべきだとの見解を示した。日米の防衛協力を強めたいのだろうが、思惑が先走るとあらぬ刺激を与えかねない。
 中国海警局船による沖縄県・尖閣諸島周辺での領海侵入が相次ぐ。白書が「国際法違反」と非難するこうした行動は不測の事態を招きかねず、対中警戒感を強める一因ということを中国も認識するべきだ。
 覇権主義を強める中国には人権抑圧などでも批判が強い。その一方で日本は地理的な近さや経済関係を重視して、米欧の制裁などとは距離を置いている。独自の立ち位置を生かす必要がある。米国と歩調を合わせつつ、中国との対話を続ける戦略的な対応を探ることが欠かせない。

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