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2021.07.21 08:00

【最低賃金】十分な企業支援も怠るな

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都道府県ごとの最低賃金(最賃)の改定について、厚生労働相の諮問機関、中央最低賃金審議会は時給を全国一律で28円引き上げる目安額を示した。地方審査会が目安通りに上げれば、全都道府県で800円を超えることになる。
 新型コロナウイルス禍で、雇用維持を理由に事実上据え置きの判断を示した昨年度から一転、現行方式となった2002年度以降で最大の引き上げ幅となった。
 労働者の待遇改善が進む半面、コロナ禍で苦境にある中小企業が人件費の増加に直面することになる。その負担をどう支援するか。政府は新たな課題を背負ったともいえる。
 大幅な引き上げは、コロナ禍でも積極的に賃上げするという政府の意向が反映された格好だ。秋までに行われる衆院選をにらみ、安倍政権時の「官製賃上げ」の水準に復することで、菅政権の存在感を示そうという思惑がうかがえる。
 昨年度に続き、新型コロナウイルス感染症の影響をどう評価するかが焦点だった。
 政府は5月、菅義偉首相が議長を務める経済財政諮問会議に中小企業の意識調査を提出した。最賃引き上げを巡り、生産性や収益力の向上といった効果を強調する一方で、雇用を削減する企業は1割程度にとどまると悪影響を否定したという。
 厳しい経営環境下で、事業継続と雇用維持が最優先とする経営側の主張をけん制し、賃上げへの流れを先んじてつくったといってよい。
 異論があっても最終的に労使全員の同意が慣例となっている審議会で、反対した経営側委員が複数いたことからも、ぎりぎりの議論だったと分かる。
 そもそも日本はフランスやドイツなどほかの先進国と比べ、最賃の安さは際立っている。非正規を含む労働者の待遇改善が進むこと自体は望ましい。ただ、16年度から4年連続で20円以上の引き上げが実現した時とは明らかに経済状況が異なる。
 賃上げを迫る政府の、企業の経営状況に対する分析は果たして適切かどうか。日銀の企業短期経済観測調査(短観)で県内の景況感は一部で改善もみられるが、コロナ禍の直撃を受けた宿泊業や飲食業では厳しい現状が浮き彫りになっている。
 待遇が改善したとしても会社が倒産したり、職を失ったりしては本末転倒だ。「官製賃上げ」の復活はそうした懸念を伴う。十分な支援策を講じる必要がある。
 長年の懸案である地域格差も残った。現行制度は経済状況や規模によって都道府県をランク分けするため、都市部と地方の賃金格差は広がる一方だった。今回は一律の目安でさらなる拡大にはつながらないとはいえ、これまでに積み重なった格差は手つかずのままだ。解消に向けた道筋は見えない。
 賃金格差を放置しては、地方からの人口流出、東京一極集中を止めることはできない。地方経済を活性化する視点を含め、新たな議論の在り方を考える時期に来ていよう。

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