2021.07.15 08:00

【表現の不自由展】不当な抗議に屈するな

 「表現の不自由展かんさい」の実行委員会が会場の大阪府立労働センター(大阪市)側から利用許可を取り消された問題で、大阪地裁は取り消し処分の執行を停止し、利用を認める決定を出した。センターの指定管理者は決定を不服として大阪高裁に即時抗告した。
 不自由展には電話や街宣活動の抗議が殺到している。施設側が利用者の安全を危惧するのも無理はない。だが、不当な圧力に屈して結果的に表現の自由を妨げることが、公的施設として適切な対応なのか。警察と十分に連携して懸念を払拭(ふっしょく)するよう努めるべきだろう。
 不自由展は2019年、国際芸術祭あいちトリエンナーレの企画展として開催され、物議を醸した。
 元慰安婦を象徴する「平和の少女像」などの展示に対する抗議は開幕1カ月で1万件を超えた。放火をほのめかすファクスも届き、開催期間の大半を中止に追い込まれた経緯がある。愛知県などの実行委員会は安全上の理由を強調した一方、作家らからは「表現の自由の侵害」と反発の声も上がった。
 今回の不自由展は、19年の作品を含めた展示内容で東京、名古屋、大阪で市民団体が企画した。しかし東京は開催延期、名古屋は事実上の中止に追い込まれた。
 いずれも抗議が相次いだためで、特に名古屋は郵便物から破裂音がする事件も発生。脅迫メールも届いたという。大阪も開催3週間前になって利用許可を取り消され、主催団体が施設側を訴えていた。
 大阪地裁は、不自由展を「憲法上の表現の自由の一環として保障されるべき」だと指摘し、直前の利用取り消しは会場変更による開催も事実上不可能にすると緊急性を認めた。主催者側に問題があったわけではないから、会場の使用が認められるのは当然だろう。
 施設側が取り消しの理由とした安全面では、抗議活動の「激化が想定されるとはいえ、警察の適切な警備で防止できないような具体的な危険があるとは言えない」とした。
 敷地内には保育所もあり、施設側が危険性を考慮した判断は理解できないことはない。ただし、それでは不当な抗議を繰り返す側の思うつぼと言える。
 もちろん抗議する自由もあるにせよ、相手に圧迫感を与える執拗(しつよう)な抗議や暴力を背景にした脅しで他人の権利を侵害する行為は許されない。地裁が示した通り、警察と連携して毅然(きぜん)と対処すべきだろう。
 不自由展だけではない。匿名の抗議や脅迫で表現の自由を脅かす事態が各地で起きている。関係者には国立施設などで議論を呼ぶ表現が既に扱われにくくなっていると現状を憂慮する声もあるようだ。
 事なかれ主義で一部の大きな声に忖度(そんたく)する。発表の場である施設側にそんな空気がまん延すれば、表現者が萎縮し、社会の多様性が急速に失われかねない。それは文化だけでなく、民主主義にとっても重大な危機にほかならない。

カテゴリー: 社説

ページトップへ