2021.07.14 08:39

高知の書店員が決める〝文学賞〟で売り上げ10倍?「山中賞」に出版社、作家注目

手作りのトロフィー、受賞作を手にする書店員の山中由貴さん(高知市中万々)
手作りのトロフィー、受賞作を手にする書店員の山中由貴さん(高知市中万々)
TSUTAYA中万々店の山中さん
 高知県に、全国の出版社が一目置く〝文学賞〟がある。高知市の「TSUTAYA中万々店」の書店員、山中由貴さん(40)が2019年に始めた「山中賞」だ。「独断と偏見」で選んだ数々の本は、受賞を機に売り上げが10倍以上に。うわさを聞きつけた出版社が「山中賞受賞」の帯で販売し、著名作家から喜びの声が届くなど、注目を集めている。

 山中さんは追手前高出身で、高知大学卒業。「本が大好きで書店員になりたかった」。学生時代から本を読むたびに感想を記した読書ノートを付けており、結婚、出産を経て25歳から同店で働き始めた。

 「化け物的小説の誕生に立ち会っているのかも」「シンプルな言葉なのにたくさんの思いが込み上げる」

 山中さんオリジナルのそんなポップ広告が客の注目を集め、普段は月に数冊、という本が100冊以上売れたことも。「高知にすごい書店員がいる」と他県でも話題になり、喜多直和店長(47)の勧めもあって、19年7月に「山中賞」を始めた。

 対象は、山中さんが半年の間に読んだ翻訳書も含む新刊本。芥川賞や直木賞と同じ1月と7月、店のフリーペーパー「なかましんぶん」のツイッター上で受賞作を動画で発表し、登場人物をイメージした手作りトロフィーと、手紙を受賞作家に贈っている。

 店では賞の発表日に特設コーナーを設け、山中さんが書いた読者宛ての手紙(コピー)を挟み、独自の帯を付けた本を並べる。

 第2回の受賞作、韓国の作家ソン・ウォンピョンの「アーモンド」(祥伝社)も受賞以前の10倍以上、月に100冊以上が売れた。これを知った同社担当者が感動し、山中さん手作りの帯や手紙をそのまま転用。全国の書店に販促グッズとして配布すると販売が伸び、同社社長がわざわざお礼に来たという。

 受賞した作家からも喜びの声が。例えば、第1回受賞作の「ノースライト」(新潮社)の著者、横山秀夫さんからは「手作りのあったかい賞」「表彰式の動画を何回も見てその度にほほ笑んでます」と記した自筆の手紙が届いた。

 第4回受賞の「彼らは世界にはなればなれに立っている」(KADOKAWA)を書いた太田愛さんは受賞時、「物語を深く深く愛してくださる方に選んでいただけたことが誇らしい」とのコメントをメディア向けに発表した。

 13日に発表された第5回受賞作は、阿部和重さんの「ブラック・チェンバー・ミュージック」(毎日新聞出版)。「まぎれもなく今年一番面白い小説! 国家をまたぐ壮大な陰謀をコミカルに描いて…」と、熱い思いを語った山中さん。「本は、言葉にならない感情を言語化してくれている。素晴らしい本に光を当て、みんなで感動を分かち合いたい」と話している。(村瀬佐保)

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