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2021.06.26 08:00

【リンゴ日報廃刊】物言えぬ香港への変貌

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 香港の報道の自由が失われたことを象徴する出来事だ。民主派系の香港紙、蘋果(ひんか)日報(リンゴ日報)が廃刊に追い込まれた。中国に批判的な論調で知られた。
 中国の習近平指導部は1年ほど前に、香港の統制強化を目的とした香港国家安全維持法(国安法)を施行し、反政府活動を犯罪行為として取り締まってきた。中国共産党創建100年を控え、民主派への締め付けはさらに強まっている。
 香港基本法は、1997年の英国からの返還後も50年間は資本主義を維持して、「高度の自治」を認めると規定する。しかし、その約束はほごにされてしまった。民主派を排除する動きが加速し、言論や集会の自由は剥奪されている。
 蘋果日報の創業者、黎智英氏は抗議デモを巡り実刑判決を受けた。国安法違反の罪でも起訴されており服役は長期化するとみられている。
 また当局は、記事などが外国による中国、香港への制裁を呼び掛けたとして編集長らを逮捕し、資産を凍結した。資金融通も摘発対象とされ、事業断念に追い込まれた。
 1995年の創刊当初は報道の信頼度はさほど高くなかったようだ。しかし、習指導部の圧力で各紙が政府批判を控える中で、民主化運動を一貫して支持する姿勢が香港市民に評価され、言論の自由と民主派のとりでとしての地位を築いてきた。
 香港では、国安法施行によるメディア関係者や民主活動家らの逮捕は110人を超えているという。中国が問題視する組織や個人への恣意(しい)的な取り締まりに利用されている。統制強化は民主派の市民を萎縮させ、自由な香港を変貌させる。
 中国は、香港当局の措置は法に基づくと支持表明し、日本など国際社会からの批判を内政干渉だと退けた。この姿勢は認められない。
 「つらい別れ」の見出しを掲げた蘋果日報の最終号に、幹部は「蘋果日報は死んだ。報道の自由は暴政の犠牲となった」と書いた。その新聞を買い求めようと、市民らが長蛇の列をつくった。通常の10倍の100万部を発行したという。市民の蘋果日報への支持であり、当局に抵抗する意識が表れている。
 香港の自治を認めた「一国二制度」は骨抜きになっている。
 習指導部の主導で香港立法会(議会)は選挙制度を変更し、「愛国者による香港統治」を確実にした。反中国的な候補者の立候補を阻止するために資格審査が導入されたほか、民主派に有利な直接選挙枠は大幅に減らされた。
 民意の反映は難しくなり、民主派の主要政党は存続が危ぶまれている。そうした姿勢には台湾統一の思惑が重なってくる。台湾問題への関与を強める米バイデン政権との対立が深まることは必至だ。
 容赦のない民主派の抑え込みは、「愛される中国のイメージ」をつくるという目標とはかけ離れた姿をさらけ出している。強引な手法を振りかざすだけでは国際社会からの信頼は得られはしない。

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