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2021.06.20 08:36

ちいきのおと(25)志和(四万十町)心寄せ合い和んでる 唯一の喫茶店「なごみ」

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じんわり営み20年
 高知県高岡郡四万十町の志和地区。高南台地から約7キロ、曲がりくねった狭い道路を下った先の集落に、唯一の喫茶店「なごみ」がある。新型コロナウイルス禍、影響はゼロではないが多大でもなし。ご近所同士が心を寄せ合い、じんわり、しっぽり和んでいる。

 「いらっしゃい」。カウンターの向こうで洗い物をしながら客を迎えるのは、店主の下村みどりさん(57)。出身は香南市で、夫が生まれた志和に嫁いで34年目になる。

料理を作る下村みどりさん。常連さんがそっと見守る(写真はいずれも四万十町志和の喫茶店「なごみ」)


 店を始めたのは2001年10月。従業員として働いていた地区唯一の喫茶店が閉店することになり、憩いの場が失われそうになっていた。

 みどりさんは3人の子育てに追われていたものの、「やらん?って周囲から声を掛けられて。皆が協力してくれると言うので、それならと」。築100年近い古民家を借りて改装し、皆が和める場にしたいと「なごみ」という店名を付けた。

「息子夫婦が孫を連れて来た」。ちょっと遅い昼食


 営業は午前9時から午後6時まで(金曜休み)。店内には良心市が設けられ、ジャガイモ、ショウガ、サヤインゲンなどが並ぶ。店内に飾る花は、常連客らが持ち寄ったもの。「暇な店やけど何とかやってます」。そんな言葉と裏腹に、モーニング、昼食と何人もの客を迎える。人気メニューは、ほんのり甘い味付けの「卵焼き定食」だ。

「卵焼き定食がおいしい」と車で訪れたお客さん


 疲れを癒やす一杯を求め、缶ビールの注文が入り始める夕暮れ時。最初にのれんをくぐって現れたのは葉タバコとショウガの農家、山本陽介さん(71)。エビネランの愛好者で料理好きな一面も持つ。

 「カレーとひら天(すり身天ぷら)合うねや」「昔から肉屋がないきねえ」「隠し味にトマトジュース入れたらうまいぜ」。一人、また一人とやって来た顔なじみとの料理談義に花が咲く。

 農家の山本美佐子さん(63)は、カウンターが“指定席”。「高知市から、ど田舎に嫁いで来ました~」と明るく笑い、酢の物でぐびり。「生きていると、しんどいこといっぱいあるけど、この店、まさに和み。みどりさんらあに悩みを聞いてもらうと、すうっと気が楽になる」

 勝手知ったる風情で裏口から入ってきたのは、アロエベラを生産、販売する山本みや子さん(71)。13年から地区内の住民新聞「志あ和せだより」(年2回発行)の編集に携わっている。

 「新聞出し始めて8年になるかな。ここは最後の話題に取っておいてるの。なくてはならん店。どうこう言うても、みんな息抜きしたいやん」

 思い思い、おなかを満たし、心を満たし。もうすぐ20周年を迎える「なごみ」には、今日も明日も人々が集う。(窪川支局・小林司)


《自慢のイッピン》
海の幸を濃い味で「志和ふわふわ天」

 食料品や仕出しを扱う中延(なかえん)商店。店主の中野重子さん(81)と長男の正延さん(53)、次男の仁さん(52)らが切り盛りする店に、週1、2回だけ並ぶのが「志和ふわふわ天」だ。

 志和ふるさとまつりの前身、こんぶまつりで重子さんらが作り始めた。イガミ(ブダイ)、ヒダリマキなどのすり身に卵や長芋を加え油の中へ。調味料なしで食べられる濃い味で、ご飯に合うし、酒のつまみにももってこい。材料がある日のみ作るため、月―金曜のいつ売られるか分からないレア商品だ。

 1パック3枚300円(税込み)。JA高知県四万十直販所「みどり市」(榊山町)でも販売。甘めの味付けのコロッケも人気だ。問い合わせは中延商店(0880・24・0401)へ。


《あの日あの時》
大正時代 ブリ大漁に沸く

 浜をびっしり埋め尽くすのは大漁のブリ。海岸に子どもが群がり、運搬用とみられる船が寄せている。志和小学校閉校記念誌に収められた大正時代の1枚だ。

 窪川町史によると、志和で定置網(大敷網)漁が始まったのは1898(明治31)年。県内で先駆けだった。大漁だと、網を引く船が旗を掲げる。何万匹、何千匹、赤や白の旗の組み合わせで目算を伝え、陸側で見張る山見(やまみ)が捉える。「校舎から『うお~』と歓声が上がった」。昭和30年代に同校に通っていた山野上ちか子さん(71)が振り返る。

 「泣きよったらブリ食わすぞ」。聞き分けのない子どもに、親たちはそんな言い回しを使った。山野上さんは「毎日のようにおかずがブリ。うんざり」。そう笑った。


《ちょっとチャット》
岩本松之助さん(13)窪川中2年

 志和は海がとてもきれい。シュノーケリングでは魚がいっぱい見られます。釣りも好きで、父の船で50センチのタイを釣ったこともあります。うちはキュウリを作っていますが、養豚農家が育てる米豚もおいしい。神社の秋祭りでは、僕たちが花取り踊りなどをします(今年は未定)。楽しい志和、ぜひ訪ねてきてください。


 中世に仁井田五人衆と呼ばれた豪族の1人、志和氏が本拠を置いた。古くから海路交通の要所で、土佐藩の年貢米の輸送拠点でもあった。ショウガや葉タバコ栽培、イセエビ漁などで知られる。磯は人気の釣りスポットで、ダイビングショップもある。5月末現在、122世帯215人。

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