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2021.06.19 08:00

【「尾身提言」】「五輪は無観客」尊重せよ

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 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志が、東京五輪・パラリンピックは「無観客が望ましい」と政府や大会組織委員会に提言した。
 政府は観客の上限を1万人とする方向だが、専門家は観客を入れると五輪期間中に再び緊急事態宣言が必要となる恐れがあると指摘する。
 五輪が感染状況に与える影響は大きく、人命にも関わる。そうである以上、専門家の科学的知見を最大限尊重することが大前提である。中止を求める世論もなお根強い。開催するなら無観客とするよう求める。
 無観客が望ましい理由として専門家は、五輪が通常のスポーツイベントより規模も注目度も格段に高いこと、時期が夏休みやお盆と重なることなどを挙げる。全国で人の移動が増えれば、感染拡大や医療の逼迫(ひっぱく)につながるリスクが高まるとの指摘はもっともだ。
 国立感染症研究所などの試算では観客を入れると、無観客の場合と比べて感染者が累計で1万人増える可能性がある。ワクチン接種が順調に進んでも、7~8月に感染者や重症者が再び増加する恐れがあるとする。専門家の見立ては厳しい。
 感染力が高いインド株も広がりつつあることを踏まえれば、提言が杞憂(きゆう)であるとは決して言えない。
 提言は観客を入れる場合でも他の大規模イベントより厳しい上限のほか、観客は開催地にいて感染対策を十分できる人に限定することなどを求めている。ただし、あくまで次善の策であろう。
 五輪を契機に感染者や重症者が増え、入院もできず、助かる命も助けられない状況になった時、その責任は誰が取るのか。緊急事態宣言などが繰り返され、飲食業界などは廃業の危機に悲鳴を上げ続けてきた。再度、緊急事態宣言が出されれば、息の根を止められることにもなりかねない。
 それを避けるためには、リスクが最も低い無観客での開催が求められるのは明らかではないか。
 政府は緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の解除後1カ月程度の経過措置として、大規模イベントで定員の50%以内であれば1万人を上限とする方針だ。予定通り7月11日に宣言や重点措置が解除されれば、1万人上限が適用される。
 対策分科会もこれを了承したものの、尾身会長は「(1万人上限は)五輪の観客の議論とは関係ないことを政府に確認した」と明言。一方で菅義偉首相は、五輪の観客も1万人上限のルールを基本に決定されるとしており食い違いがみられる。
 五輪の観客については、政府と大会組織委、国際オリンピック委員会などが21日にも決める。「観客ありき」で突き進むのではなく、感染リスクを最小限に抑えるためにベストの選択は何か。専門家の提言を軽視することなく、適切に判断しなければならない。
 菅首相が繰り返す「国民の命と健康を守る」ことは、それなしにはできない。

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