2021.06.16 08:40
スクール弁護士の活用模索 高知県教委導入1年、法的相談10件 理想と現実に開き
「いじめた生徒の親に謝罪の気持ちが見えない」「学校はなぜ加害者の肩を持つのか」「うちの子が加害者扱いされるのは納得できない」
県内では、子ども同士のいじめやけんかなどをきっかけに、保護者が校長や担任を追及するケースがあり、学校の対応に納得がいかず「学校を訴える」と迫る保護者もいる。
県教委によると、2019年度に把握したいじめの件数は3855件。ほとんどがちょっとしたいざこざで、多くの場合、学校の指導や子どもの謝罪で収まっている。
一方で、保護者同士の対立に発展し、加害者側に金銭を要求したり、学校に当該生徒の退学処分を求めたりするケースも。子どもの在学中に解決できず、卒業まで保護者対応が続く場合もある。
■助言で「確信」
スクールロイヤー制度は、学校の初期対応のまずさから、いじめ自殺や虐待死を防げなかった問題などを背景に昨年度、文部科学省が創設した。
県教委は昨年6月に高知弁護士会と協定を結び、13人の登録弁護士が対応に当たることになった。学校の依頼を受けて始動する仕組みで、弁護士は教員向け研修の講師も務めている。
昨年度は小中高10校が制度を活用。子どものいじめを巡る親同士の対立に板挟みになったり、教員の不注意な言動が生徒を傷つけて学校と保護者がトラブルになったりしたケースなどを相談した。
ある学校長は「保護者の無理な要求を拒否することが間違っていないか常に不安。専門家の助言で確信を持って対応できた」と歓迎する。
■初期対応こそ
昨年度の相談の中には保護者とトラブルになった校長が金銭を支払い、保護者の逮捕に至った高知市の小学校のケースも含まれる。同市教委は「後から考えれば、既に警察に相談している状況で、スクールロイヤーが何とかできるタイミングではなかった」。
スクールロイヤーを務める津田久敬弁護士も、「関係がこじれきった後では、できることは少ない」と指摘する。
いじめなどが発生した場合、保護者と不要な対立を生まないために「学校が聞き取り調査を客観的に行っているかなど法的な助言を行うことが、そもそもの制度の狙いだ」と説明。理想として保護者と学校側の面会にスクールロイヤーが同席し、中立の立場で話し合いの整理をする役割を描く。
ただ、県教委は「学校側の弁護士と捉えられ、保護者感情を逆なでする懸念がある」として同席は想定していないという。
制度導入2年目。県教委は活用拡大へ昨年度の倍となる約200万円の予算を確保した。それでも、すべてのケースに弁護士を派遣することは現実的には難しい。
県教委人権教育・児童生徒課は「どんなケースに制度が有効か、事例を重ねて研究したい」としている。(宮崎順一)