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2021.05.31 08:00

【東京五輪・パラ】「安全、安心」が見えない

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 「国民の命と健康を守り、安全、安心な大会の実現に全力を尽くす」
 東京五輪・パラリンピックを巡って、菅義偉首相は判で押したように繰り返す。しかし、もはや「安全、安心」を担保するのは難しいと言わざるを得ないのではないか。
 国際オリンピック委員会(IOC)が、東京五輪の選手らに求める参加同意書に自己責任のリスクとして、新型コロナウイルス感染症や猛暑による健康被害を盛り込んだ。重篤な身体への影響や、死亡に至る可能性にも言及している。
 どんなスポーツ大会にも相応のリスクはあろう。同意書も五輪の各大会で提出が義務付けられている。だが夏冬の直近6大会で「感染症」や「死亡」の文言はない。命懸けを求める異例の内容であり、選手らから疑問の声が上がるのは当然だろう。
 そもそも、何をもって「安全、安心」とするのか。
 東京など9都道府県の緊急事態宣言は6月20日まで延長された。東京を中心に新規感染者がどの程度減れば開催できるのか。欧米に比べて格段に遅れている国内のワクチン接種が、どのぐらい進めばいいと考えているのか。記者会見で聞かれても菅首相は正面から答えない。
 東京五輪・パラの中止を求める人は、共同通信の直近の世論調査でも60%近くに上っている。「安全、安心」の判断基準を示さないままでは、こうした世論を変えていくことはできない。
 開催に向けて最も懸念されるのは医療提供体制への影響だ。
 大会組織委員会は五輪とパラの2カ月間で、1日当たり医師は最大230人、看護師は同310人程度が必要と想定。橋本聖子会長は「全体の8割程度は見通しがたった」とする。
 とはいえ、大会期間中はコロナに猛暑が追い打ちをかける。各国選手団や関係者は毎日検査を受けるからそのスタッフも要る。現在、コロナ最前線で奮闘する医療従事者らに、さらなる負担をかけることは本当にないのか。
 組織委は大会計画の根幹となる観客数を巡っても、その上限を判断する時期を6月中下旬に先送りする方針だ。緊急事態宣言解除後の政府の基準に沿って考えるためという。
 観客を入れるか、無観客とするか。入れるとして上限をどうするか。条件によって求められる医療体制は変わってくる。こうした情報の公開が少ないことも、国民の不安の一因となっていよう。
 観客数に応じて医療関係者がどれほど必要になってくるか。それによって医療現場への負荷は、どう変わっていくのか。組織委などは、できる限りデータを示して説明するべきである。
 「安全、安心」が見えない、と感じているのは国民だけではない。米国の専門家からも、日本の五輪コロナ対策は「科学的根拠に基づいていない」と指摘されている。
 日本政府や組織委が丁寧な情報発信をしなければ、中止論は日増しに強まっていくだけである。

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