2021.05.16 08:00
【医療費2割負担】制度維持へ抜本改革を
人口の多い団塊の世代が22年から75歳以上になり始め、医療費の急増が見込まれる。現役世代の負担も限界に近づきつつある。対策が待ったなしと言ってよい現状を踏まえれば、支払い能力に応じた見直しはやむを得ないだろう。
負担増となるのは、年金を含む年収が単身者で200万円、夫婦世帯では320万円以上。年金生活をおくる元サラリーマンのイメージと重なる。対象は約370万人で75歳以上の約20%、県内では15・3%にあたる。
引き上げ後の3年間は、外来受診に限って負担増を月額最大3千円とする激変緩和措置が設けられる。とはいえ、負担増が重荷となって治療が必要な人が受診を控える事態も想定される。十分な目配りが欠かせない。
痛みを伴う半面、狙いとする現役世代の負担軽減効果は限定的というほかない。医療費の膨張が続いているからだ。21年度の医療費は予算ベースで46兆6千億円に上り、20年前の1・5倍になっている。このうち75歳以上の医療費は4割を占めている。
後期高齢者医療制度は窓口で支払う自己負担分を除き、4割が現役世代が支払う保険料からの拠出金、5割は国や自治体の公費が充てられている。実態としては現役世代が支える構造だ。
この拠出金は21年度の6兆8千億円から、団塊の世代が全員75歳以上となる25年度には8兆1千億円に増えると試算されている。2割枠の新設による現役世代の負担軽減額は年間で720億円、拠出金の1%前後にとどまる計算だ。
2割枠の新設は安倍政権が打ち出し「全世代型社会保障改革の柱」と検討してきたが、その割に効果は中途半端な印象を拭えない。
菅義偉首相は「若い世代の負担上昇を抑える」と意義を強調している。しかし、高齢化のピークに向けてさらに医療費全体が膨らんでいく中、今回の見直しがどれだけ医療保険制度の持続性につながるかには疑問が残る。
社会保障は医療を含め、全ての世代が関わる問題である。それぞれの世代が納得できる、負担の公平性が求められる。「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という構造」(菅首相)を見直すことは避けて通れない。
ただ、国民が最も懸念しているのは制度の持続性にほかなるまい。少子高齢化が続く中で、どう次代に引き継いでいくのか。医療のみならず、社会保障制度全体の将来像を示す必要がある。
今回の見直しはいわば対症療法の域を出ず、より抜本的な改革が求められよう。検証を重ねながら、目指す方向性を絶えず議論していかなければならない。