2007.10.01 08:00
『本城直季 おもちゃな高知』どう、どう、ご飯甘いろー
「炊けたでー」。お皿の上に、ぴかぴかの白いご飯。釜から出したばかりで、ふわーっと湯気が立ち上る。ちょっと熱いのを、「いただきます」と一口。
長岡郡本山町。夕暮れが近い、農家の庭先。
「どう、どう?」。野良着姿のきみこさん(67)と、息子のたかしげさん(46)が、二人でのぞき込んでくる。
「甘くて、おいしいです」
「そうやろー。甘いろー。さっき精米したがやき」。たかしげさんが笑う。
こんもり盛られたご飯に見入っていると、きみこさんが「漬物でもあったらええけど、無いがよー」。
「いやいや、全然大丈夫です」。だって目の前には、淡く色づいた空と、のどかに広がる田んぼと畑。
あぜ道には、すっと伸び、真っ赤な花をつけた彼岸花。「はで木」に掛けられた稲。ぜいたくな風景のおかずで、あっという間にお皿は軽くなった。
◇
吉野川沿いに横たわる農地。山間部に珍しく、平地が広がる。
ご飯をいただく約1時間前。ふわふわ飛ぶ赤とんぼを見上げながら、ショウガ畑の脇を歩いていると、あぜ道を走ってきた軽トラックが真後ろに止まった。荷台にはたくさんの米袋。
「この辺のお米は、おいしいですか?」。何げなく尋ねると、運転席の男性が「今つきゆう米があるき食べらしちゃお。うち、すぐそこやき」。そう言って、トラックはごとごと走りだした。それがたかしげさん。
家のそばの細い水路には、透き通った水が流れていて、野中兼山が樫ノ川から引いたのだという。
「えーと、うちの先祖は…きょうほう…ちょっと待って取ってくる」。きみこさんが、そう言って家系図を取り出してきた。背を丸め、しげしげのぞき込み「えー、ぶんか…この人は90歳。死んだ年が書いちゅう。うーん、あとはなんて書いちゅうか、よう分からんねー。まぁ、だいたい長生きしちゅうねー」。
たかしげさんは8年前、家業を継いだ。前は酒の卸会社のサラリーマンだった。「農業はえいねえ。最初は嫌やったけどねぇ。働いただけ、見返りがある」
たかしげさんには、小学生の子どもが2人。農業が大好きらしい。「休みの日に『どうするよ』って聞いたら、『行くわー』って、地下足袋はいて来るで。仕事に行くのを当たり前やと思うちゅうみたい」
学校でも、花壇や畑の草をタッタカ両手で引くので、先生が感心しているそうな。草が生えていると、どうも気になるらしい。「お小遣いで野菜の種を買うてくる。自分で畑の草むしって、耕して、『おばあちゃん、植えるとこできたでー』やもん」
地下足袋はいて、お小遣いで種を買う小学生…。会ってみたい…。
この日はあいにくお留守。また今度、仕事ぶりを拝見させてもらいましょう。(飯野浩和)