2021.05.15 08:45
自己新で東京パラリンピックの切符、代表内定の小松沙季 カヌー挑戦2カ月で快挙達成「最善の結果。力出し切れた」
小学2年生からバレーボール一筋だった。中村ジュニアバレーボールクラブ、中村中で全国大会に出場。高知中央高でも1年生からメンバーに入り、2年連続で春高バレーに出場。大学卒業後はV2リーグのブレス浜松に入った。
指導者への転身も視野に退団し、大阪で生活していた2019年6月、異変に襲われる。「朝起きると、立ち上がれなかった」。両足がまひし、両腕にも軽度のまひがあった。大阪、京都でリハビリを続け、1年後の昨年6月に帰郷した。
予想もしない展開だった。が、「小学2年からずーっとバレーをやってきて、休んだことがなかったので、長い夏休みなのかな」と前向きに捉えた。それどころか、車いすを積み込める車が納車された翌日には、「インターネットで探して環境が整っていそうだった」という広島県のジムへ向かっていたという。
驚くべき行動力の裏側にあるのは「アスリートの熱」だ。「(リハビリ以外は)ずっとじっとしていたので、エネルギーの持って行き場を探していた」。そんな時、パラカヌー関係者から競技に誘われた。
そこからは怒濤(どとう)の日々。今年2月中旬に県内のプールで競技用カヌーに初めて試乗したかと思ったら、その2週間後には、海外派遣選手選考会への出場を目指し、カヌーが盛んな香川県の府中湖へ。3月上旬から、日本トップクラスの男子選手と一緒に猛特訓が始まった。
特訓序盤は「(200メートルのコースを)真っすぐに進む練習なのに3コース分ぐらいをスラロームしながら進んで(笑)。2分以上かかってましたからね…」。ここでバレー仕込みのガッツが発動する。1週間でコースアウトしなくなると、次の1週間でタイムを1分21秒に縮めた。
さらに燃え上がる小松のアスリート魂。「21秒の壁」を破るべく、スタート時のパドルのこぎ方を工夫するなどしてタイムを縮めた。
迎えた選考会当日は雨で、左手の握力が弱い小松選手にとっては「オールが滑る最悪のコンディション」だったが、1分14秒の自己ベストをたたきだす。自前の艇がないために借りた赤いカヌーを操る新星の登場に、会場も「赤い彗星(すいせい)現る!」と沸いた。
W杯でも白の借り物の艇で参戦。「初めての世界大会だったけど、バレーで培ったメンタルを発揮できたかな」という渾身(こんしん)のレース内容で、1分13秒54の自己ベストをマーク。周囲の選手からも「2カ月でここまでできるとはすごい。めちゃくちゃ良いレースだった」との称賛を受けた。
レース2戦目でパラ代表の座を射止め、「上位の選手はとても速かったですが、想像していたよりは食いついていけた。そういう意味では自信もついた」。東京へ。怒濤の挑戦が加速する。(井上真一)