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2021.05.12 08:00

【東京五輪・パラ】中止も選択肢に議論を

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 白血病から復帰し、東京五輪代表入りを決めた競泳の池江璃花子選手が、会員制交流サイト(SNS)を通じて代表の辞退や五輪への反対を求めるメッセージが寄せられていたことを明らかにした。
 本来なら東京五輪・パラリンピックの中止を求める先は、政府や大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などだろう。
 池江選手は「非常に心を痛めたメッセージもあった」と苦しい心境を述べている。アスリートに矛先を向けて中止への圧力をかけるような行為は筋違いである。
 一方で、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、五輪への逆風は強まっている。5日に始まった中止を求めるオンライン署名は30万筆を超えた。
 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長も「開催に関する議論をしっかりすべき時期に来ている」と国会で指摘した。
 菅義偉首相は「開催ありき」の姿勢を崩していない。しかし、政府は国民が判断できる情報を十分に示しているだろうか。
 五輪開催に向けて、最も問題視されているのが医療体制への影響である。組織委が日本看護協会に看護師500人の確保を依頼したことなどは、「五輪は特別扱いか」と強い批判にさらされた。
 政府は2月の時点で、五輪・パラを通じた約2カ月間で、1人5日の参加を前提として計約1万人の医療スタッフの確保を計画していると説明していた。
 1日当たりに必要な人員を医師が最大で約300人、看護師が約400人と試算したが、必要な数を確保するめどはついているのだろうか。変異株が猛威を振るい、医療体制は各地でますます逼迫(ひっぱく)している。医療現場からは既に「限界」の声が上がっている。
 観客を入れるか、無観客とするのか。組織委は大会計画の根幹となる部分についても決定していない。
 収容人数などによっては、必要な医療従事者の数は大きく変わる。国民が五輪開催の是非を考える上でも、判断材料がない状況と言えるだろう。
 菅首相が「対策の決め手」としてきたワクチン接種が遅れていることも足かせになっている。変異株に対応した対策強化も発表されたが、海外から選手や大会関係者を受け入れることへの懸念は根強い。
 国会で菅首相は五輪中止を求める野党質問に対して、「国民の生活と健康を守り、安全・安心な大会が実現できるように全力を尽くすことが私の責務だ」と、決まり文句の答弁を連発した。
 意欲を見せるだけで、丁寧に説明する姿勢を欠いたままでは、国民の不安を解消することはできまい。
 7月23日の五輪開幕まで残された時間は少ない。国民が「強行」と感じてしまうような東京五輪・パラリンピックになってはならない。
 中止の選択肢も含めて、五輪開催の是非を議論すべき時である。

高知のニュース 社説

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