2021.04.18 08:00
【日米首脳会談】独自の外交で新局面へ
覇権主義的な動きを強める中国への対処方針は重要な議題だった。バイデン政権は「唯一の競争相手」と位置付ける中国を念頭に、インド太平洋地域の秩序維持に向けて連携を確認した。
注目された共同文書には、台湾海峡情勢が明記された。冷戦期の1969年以来であり、日中国交正常化以降は初めてとなる。
バイデン政権は、民主主義の台湾を「重要な安全保障、経済面のパートナー」と位置付け、支援する方針を鮮明にしている。3月の日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の共同文書は中国を名指しで批判した。今回の声明は平和と安定の重要性を強調している。そして「平和的解決を促す」としたのは当然だ。
しかし、台湾問題に踏み込むことに中国が反発を強めることは必至だ。台湾は中国の不可分の領土との立場を貫く。台湾の防空識別圏に繰り返し軍機を侵入させている。さらなる増加や、周辺で軍事演習を行うことも想定される。
沖縄県・尖閣諸島にも中国海警局船による領海侵入が相次いでいる。首脳会談では、米国による防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象だと再確認した。台湾同様、挑発で緊張を高めないように中国は自制が必要だ。
米中の対立は、中国・新疆ウイグル自治区や香港での弾圧など人権問題を巡っても高まっている。日米は「深刻な懸念」を共有した。
その一方で、制裁を発動する米国と、関係悪化を心配して制裁に慎重な日本には温度差がある。日本は中国と地理的に近く経済関係も重視する姿勢だ。半導体などサプライチェーン(部品の調達・供給網)での連携もすぐには中国を外せず、どこまですり合わせたか気になる。
首相はバイデン氏との個人的な信頼関係構築への意欲を表明していた。秋までに実施される衆院解散・総選挙へ向け、日米の結束強化を政権浮揚の材料としたい思いもあるだろう。「ヨシ」「ジョー」と互いをファーストネームで呼び合って親密さを打ち出した。
日本外交の基軸である日米同盟を強固にするのはいい。ただ、「自由や民主主義といった普遍的価値」で結ばれるといっても、無批判に米国に追随したり、米中対立に巻き込まれたりすることではない。バイデン氏の初会談に日本を選んだのも、中国などの脅威に対抗する期待感があることは簡単に想像できる。
安全保障分野での日本の能力向上要求がさらに強まるかもしれない。北朝鮮の核・ミサイル開発や日本人拉致問題、新型コロナウイルス対策、気候変動問題など課題は多い。戦略的な思考で、難しい局面でもバランスを失わない日本独自の外交を進める必要がある。