2021.04.13 08:00
【マスターズ優勝】男子ゴルフに新たな歴史
男子ゴルフの松山英樹選手が、米マスターズ・トーナメントで優勝した。年に4度のメジャー大会の一つを制したのは、日本の男子はもとよりアジア人でも初の快挙である。
松山市出身の松山選手は明徳義塾中高に進み、ゴルフの基礎を固めた。高知県にもなじみ深い選手の偉業を喜びたい。
4打差の単独首位でスタートした最終日。後半ボギーが続き差を詰められたが、バンカーショットやパットなど小技もさえて踏みとどまり逃げ切った。
メジャー大会で優勝を果たす重圧は、すさまじいものだったに違いない。耐え抜けたのは、29歳にしてマスターズ挑戦10度目という経験も大きかったろう。
米ツアーでは日本人最多の5勝を挙げたものの、2017年以降は勝てていなかった。一時はメンタル面の問題を指摘する声もあったが、それでも世界ランキングは30位以内を維持してきた。
実力のルーツは明徳義塾時代にさかのぼる。指導した高橋章夫さんが、「歴代の選手の中でもトップクラス」と認めた練習の虫。朝暗いうちから走り、ボールを打ち込んで授業に出た。好調でも不調でも練習場でクラブを振る姿は変わらないというスタイルは、このころに培われたものだろう。
東日本大震災直後の2011年春、東北福祉大2年の19歳でマスターズに初出場。27位と健闘し、ベストアマチュアに輝いた。震災10年の節目に優勝をもたらしたのは、被災者にとっても大きな励みとなったはずである。
グリーンジャケットに袖を通す栄誉は松山選手のものだが、優勝の意義はそれにとどまらない。
「日本人はメジャー制覇できない」。そんな通説を覆した松山選手の姿を、日本の子どもたちも目に焼き付けたことだろう。
今大会直前、同じコースで行われたオーガスタ・ナショナル女子アマチュア選手権を制したのは、日本の17歳、梶谷翼選手。日本人選手の活躍は男女を問わず、次代を担う若手への刺激となる。
スポーツが社会に与える影響も大きくなっている。
米国では今、アジア系市民に対する憎悪犯罪(ヘイトクライム)が相次いでいる。中国で初めに感染が拡大した新型コロナウイルスの流行がきっかけだ。女子テニスの大坂なおみ選手らは「アジアの文化や人々を尊重して」と呼び掛けている。
こうした訴えをしなければならないこと自体悲しいが、差別をなくすためにスポーツが果たす力は小さくない。
男女や国籍、人種などにかかわらず、ただ実力のある者が勝つ。尊敬と称賛に値するプレーによって受け入れられ、評価される。
松山選手のマスターズ優勝も、その証しの一つである。