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2021.04.05 08:00

【土地規制法案】恣意的に運用されないか

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 安全保障面で重要な施設の周辺の土地利用を規制する法案が国会に提出された。
 政府は、外国資本に買収され、防衛関係施設などの機能を阻害する行為が行われないようにするための重要な法案と位置付け、今国会での成立を目指している。
 外国資本による日本の国土買収はこれまでにも問題となってきた。そうした動きが、自衛隊基地周辺や国境離島でさらに広がることへの警戒感が背景にある。
 日本の安保環境が脅かされることがあってはならない。それは当然だが、危機意識をあおるだけではだめだ。新法が必要とされる状況なのかは明確ではなく、個人情報が際限なく収集されかねないなど、恣意(しい)的な運用への懸念も根強い。慎重な審議が求められる。
 法案は、自衛隊基地、原発などの周辺約1キロや国境離島を国が「注視区域」に指定する。土地、建物の所有者の氏名、国籍、利用実態などを国が調査することができるようになる。妨害すれば中止命令を出し、従わなければ罰則を科す。
 また、特に重要性の高い自衛隊司令部周辺や、領海の基点となる無人国境離島などは「特別注視区域」とする。一定以上の面積の土地取引には事前の届け出を義務付け、違反には罰則がある。
 自衛隊施設周辺の土地を巡っては、北海道千歳市で中国、長崎県対馬市では韓国に関係する会社の取得が判明した。地元では何に使われるか分からず、不安も強いという。このため、外国資本による不透明な土地取引を迅速に把握して、不安を軽減したいという狙いは分からないではない。
 だが、そもそも土地所有を巡り、自衛隊の活動に支障がでるような事案が発生したことがあるのかは明確でない。なぜ法を必要とするのかが曖昧なままでは、運用への懸念がぬぐえなくなる。
 現状では規制対象となる施設などは明確でなく、調査する内容も政令で定めることになっている。調査は思想や友人関係など際限なく広がりかねないことが指摘されている。
 このため法案は、個人情報の保護に十分配慮することを盛っているが、踏み込んだ個人情報の収集が行われる恐れを打ち消すことにはならない。国民に不利益をもたらすようなことはあってはならない。
 世界貿易機関(WTO)は外国資本を理由にした規制を認めていない。このため「安全保障」を理由として、外国資本にとどまらない規制とせざるを得なくなり、広く国民生活に影響しかねなくなった。
 公明党は当初、市街地を指定した場合に想定される経済活動への悪影響や、過度な私権制限につながると警戒していた。自民党との協議で、特別注視区域を必要最小限にすることなどで合意した。
 安全保障上の必要性と、規制による国民生活への影響を明確にしなければならない。審議を通してその兼ね合いを見極めることが必要だ。

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