2021.03.22 05:00
【五輪演出案】 感覚を疑う「容姿侮辱」
開閉会式の企画、演出の統括役を務めていた佐々木宏氏が、式典に出演予定だった女性タレントの容姿を侮辱する内容の演出を提案したことが分かり、辞任に追い込まれた。
大会組織委員会では、2月に森喜朗前会長が女性蔑視発言で辞任したばかりだ。組織委の差別や偏見に対する感度の鈍さにあきれる。
橋本聖子会長が掲げる「国民に歓迎される大会」への道のりはさらに険しくなったと言わざるを得ない。
佐々木氏は昨年3月、通信アプリのLINE(ライン)を用いて、演出チーム内にメッセージを送った。渡辺直美さんが豚に扮(ふん)する演出「オリンピッグ」案で、これにメンバーが反発して撤回された。
広告大手電通出身の佐々木氏は人気CMを多く手掛けてきた。「ざっくばらんにやりとりした中で、私が調子に乗って出したアイデア」と釈明しているが、感覚を疑う。
LINEには不快感を催すような豚の絵文字も使われていた。人の容姿を笑いものにする意図があったと受け取られても仕方がない。
あらゆる差別を認めないのが五輪憲章の原則である。世界が注目する開閉会式で、そのような演出をすれば、国際的な非難を呼ぶことは目に見えている。
ただでさえ、新型コロナウイルスの流行で大会開催を危ぶむ声も出ている。国民が反発する不祥事の連続では「中止論」も高まりかねない。
今回の一件は、人の容姿をおとしめる発言をしたり、差別的に取り扱ったりする「ルッキズム(外見至上主義)」の問題を浮き彫りにもしている。
欧米諸国では、ルッキズムは許されないという意識が高まっている。さまざまな人種や民族が共存しており、外見を批評することが人種差別に直結しかねない背景がある。
一方、そうした状況になかった日本では、外見のコンプレックスを強調する広告表現があふれている。「不愉快」「差別を助長する」として改善を求める声も上がっている。国内でも行き過ぎた表現はもう許されないことを認識するべきだ。
日本に生活する外国人は増えており、社会は多様化している。国際結婚も多くなり、外国にもルーツがある子どもは約50人に1人の割合に上る。肌の色や髪の毛、体形といった外見の違いから、そうした子どもが差別や偏見を感じる場合は多い。
今回の一件を受けて、渡辺直美さんは「私自身はこの体形で幸せです」とした上で、こう述べている。「ひとりの人間として思うのは、それぞれの個性や考え方を尊重し、認め合える、楽しく豊かな世界になれることを願っております」
人の容姿を安易な気持ちで批評することは避けるべきだ。ましてや、笑いものにする行為は決して許されない。今回の問題を日本社会の意識を見直す契機としたい。