2021.03.15 08:00
【孤独・孤立対策】悩む人につながる支援を
政府が対策に乗り出した。菅義偉首相は孤独・孤立問題の担当相を新設し、坂本哲志1億総活躍担当相を兼務で充てた。課題が多岐にわたるため、全ての省庁を参加させた政府の連絡調整会議を設けた。
一人で困りごとを抱え込んでいる人が相談でき、適切な支援につなげられる体制を構築せねばならない。
海外では、英国がコロナ禍以前の2018年、孤独が健康に悪影響を及ぼすとして「孤独担当相」を設置した。孤独をなくすことを政府目標としている。
日本社会でも以前から多くの人が苦しんできた問題で、それがコロナ禍によって顕在化したと言えるだろう。孤独や社会的孤立は、本人が追い込まれた末に自ら死を選ぶ危険性がある。国が解決すべき問題として対策に乗り出した意義は大きい。
状況の深刻さは数字に表れている。昨年の自殺者数は2万1077人(暫定値)で前年と比べ908人多かった。リーマン・ショック後の09年以来11年ぶりの増加で、コロナ禍がさまざまに影響している可能性が指摘されている。
特に女性と子どもの命に関わる問題になっている。女性の自殺は前年より千人近くも増えた。うつ病など健康問題を理由とする人が多い。小中高校生の自殺は統計のある1980年以降最多の479人に上った。
女性は非正規雇用が多く、コロナ禍で収入減や失業に遭って困窮する人が増えている。子どもは一斉休校で生活環境の激変に見舞われた。
社会や地域とのつながりも薄れ、助けを求める声を上げられず追い込まれる状況が生まれている。
外出自粛などが影響し、女性へのドメスティックバイオレンスや子どもへの虐待が激化している場合もある。若者が心身を悪化させて引きこもりになったり、高齢者が孤独感から活力を失ったりもしている。
さまざまな要因が絡み合っており、解決に向けては一体的な支援を行う必要がある。政府が省庁横断の取り組みを目指していることは評価したい。
相談窓口は複数に分かれるのではなく、国民が相談すれば適切な支援に振り分けてもらえる総合的な窓口に一本化すべきだろう。悩む人に寄り添ってきた民間支援団体の意見を取り入れることも欠かせない。
日本では、生活上の問題が生じたときに「自己責任」とみなす傾向が強い。しかし、個人の努力だけで解決できない問題は多くある。
ましてやコロナ禍である。政府は国民に対して、相談を呼び掛けるメッセージを繰り返し伝えねばならない。悩みを抱え込んでいる人が「助けてほしい」と声を上げやすい社会状況をつくる必要がある。
孤独・孤立の問題に特効薬はなく、地道な取り組みを重ねるしかない。国は国民の心身を守るため、対策に腰を据えて臨むべきだ。