2021.01.05 08:39

芽吹き始めたSEEDたち 高知大卒医師の地域医療(1)

 高知県内の医師不足に対応するため、2007年に始まった医師養成奨学貸付金制度。奨学生たちは「高知県の医療の種になる人」という意味を込め、自らを「SEED(シード=種)」と呼んでいる。

 県内では現在、156人のSEED出身者が働いている。その多くが高知大の卒業生だ。医師として各地で芽吹き始めた姿を紹介する。

「患者の希望に沿い、マネジメントできる医師になりたい」と語る冨士田崇子さん(土佐市高岡町甲の土佐市民病院)
「患者の希望に沿い、マネジメントできる医師になりたい」と語る冨士田崇子さん(土佐市高岡町甲の土佐市民病院)
冨士田崇子さん(31)土佐市民病院「治療も希望も」実感
 循環器内科医の冨士田崇子さん(31)は昨年10月、土佐市民病院に赴任した。医師6年目。一人で任される仕事も増えた。

 「外来は週3回。風邪、高血圧、脂質異常、健診で引っ掛かった人…いろんな患者さんが来ます。他には病棟回診、救急当番。合間に心エコーの勉強をしています」

 ■  ■ 

 冨士田さんは広島県尾道市出身。医学部の入試制度の一つである「地域枠」で高知大学に入学した。

 卒業後、県立幡多けんみん病院(宿毛市)で、2年間の初期臨床研修を行った。その後、近森病院(高知市)の循環器内科でカテーテル検査や治療の経験を積み、土佐市民病院に移った。

 もともとの希望は精神科医だったが、大学の実習などで地域医療に興味を持った。学内にサークルを立ち上げ、安芸郡馬路村に通って住民と交流を続けるなど、「地域」にどっぷり入り込んだ。

 「患者が住み慣れた地域で安心して暮らすために、医師に求められることは何だろう」

 仲間たちと熱く論議しながら「自分が地域で働くイメージができた」。循環器内科も「専門性を持ちながら、内科医として地域で幅広く診療したい」という理由で選んだ。

 地域医療に抱いていたイメージを実感したのは、近森病院で90代の女性患者を担当した時だった。

 「心不全の末期で、もう治療はできなかった。『家に帰りたい』という希望があり、カンファレンスをして帰すことができました」

 後日、患者が自宅で大好きなカレーを食べ、満足して亡くなったと聞き、「ああ、こういうことなんだ…」と悟った。

 「医師の仕事は治療だけど、治療だけじゃない。患者の希望に沿い、どんなことに困るのかを考え、調整するマネジメント能力が求められるんだなと」

 「おばあちゃんがカレーを食べられてよかった」「医者になってよかった」。心から感じた。

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 患者に提供する医療はその施設の規模、位置付けによって大きく変わる。

 「急性期病院」と呼ばれ、一分一秒を争う患者に対応する近森病院では「治療の完結」が求められた。地域の中核である土佐市民病院では「ここで治療して経過観察するか、より高度な病院に送るか」の判断を迫られる。

 酔っ払って転んだ人がくも膜下出血だった、「胸が変な感じ」と深夜歩いて外来に来た人が心筋梗塞だった―。救急当番は「緊張する」と冨士田さん。

 「今は大病院ではできない経験を積んでいます。将来は馬路のような診療所でも働いてみたい」。10代で高知大の地域枠を選び、卒業後も高知に残ったことに「後悔はありません」。まっすぐに語った。(門田朋三)

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