【動画】知的障害のエレクトーン奏者、武市光平さん(高知市)「音楽の楽しさ届けたい」
いくつもの困難を、抜群の記憶力と音感で乗り越え、電子オルガン「エレクトーン」の奏者として活躍する男性がいる。高知市の武市光平さん(30)。知的障害があり、進行性の難聴を患っているが、人と接することが好きで、演奏で喜んでもらうことが好きだと、毎日練習に励む。2020年12月には法務省に選ばれ人権擁護功労賞特別賞を受賞。「聞いた人が喜んでくれるように、もっと一生懸命に演奏していきたい」と目を輝かせている。
武市さんは先天性リンパ管腫と血管腫で出生時から呼吸困難に陥り、生後約半年で心不全を起こすなど生死の境をさまよった。気管切開など手術や治療のため、1歳前まで病院で過ごした。音楽と出会ったのは、そのころ。治療用機械の音が響く病室で過ごすわが子に聞かせようと、両親が枕元に置いたカセットプレーヤーから、童謡やジャズ、フュージョンなどが流れていた。

5歳になり、ピアノ教室でエレクトーンに出合った。弦楽器や管楽器とさまざまな音を出し、ハーモニーやメロディーを1人で演奏できる電子楽器に魅了された。当初から、練習曲なら1週間で10曲ほどを覚えた。指導者の指や足の動きを目で追い、曲と重ねて演奏法を身に付けた。耳で覚えるのが早く、楽譜は学ばないまま。だから今も楽譜は読めない。
演奏の強弱など曲の表現を言葉で理解するのは難しかった。指導者に背中を指でたたいてもらう感触を頼りに繰り返し練習し、体に覚え込ませていった。努力の成果はコンクールで発揮され、高知県代表として何度か四国大会にも進んだ。
指導者の仲間と一緒に、17歳で「高知街ラ・ラ・ラ音楽祭」に出始めた。これをきっかけに、県内の小中学校や病院、自治体主催のイベントなどで演奏するようになり、2018年には県民文化ホールで開かれたロックバンド「サルサガムテープ」の公演に出演。ソロ演奏を披露するなどプロミュージシャンらと共演した。

「楽しそうにのってくれるのが好き」。学校などでのコンサートでは、子どもたちが体でリズムを取ったり、一緒に歌ったり。演奏後は子どもたちが囲んで握手を求めたり、サインをねだることもあれば、「スーパーで声をかけてくれたり、大人になってからもあいさつしてくれたりする」こともあるという。
10歳から進行性の感音性難聴を患い、高音や低音域は聞こえず、音色の判別も難しくなっている。けれど、身についた絶対音感を生かしてレパートリーを増やし、演奏力を磨く。毎日の練習は欠かさず、平日午前9時から午後3時まで、高知市種崎の就労支援事業所「オーシャンクラブ」で働いた後、帰宅後に3時間半、休日には5時間も励む。
「聴いてくれる人が1人でもいるなら」というほど、人前での演奏が楽しくてたまらないという武市さん。「みんなの応援や支えがあったから頑張ってこれた。これからも笑顔で音楽の楽しさを届けていきたい」。
人なつっこい笑顔で今日も鍵盤を弾いている。(飯野浩和)

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