2020.11.23 08:00

【ネット中傷対策】被害者の早期救済へ一歩

 インターネット上の匿名での誹謗(ひぼう)中傷対策として、総務省が投稿者を特定しやすくする新たな裁判手続き制度を創設することになった。関連法の改正案を来年の通常国会に提出する方針だ。
 現状は、被害者が投稿者を特定するまでの手続きが煩雑で、時間もかかる。泣き寝入りする人も少なくないとみられる。
 男女の日常生活を描くテレビ番組に出演していた女性が、番組内の言動への批判を受け5月に死去した。同省の既存の有識者会議が、この問題も含め論議してきた。
 プロバイダー責任制限法では、匿名で中傷された被害者はネット接続事業者(プロバイダー)に対し、投稿の削除と投稿者の氏名などの開示請求ができる。ただ、投稿による権利侵害が明白かどうかによって開示されないケースが大半という。
 さらに、訴訟手続きを取ったとしても心理面、経済面とも負担が大きく時間も要するため、被害者に不利な仕組みとなっていた。
 新たな手続きでは、被害者の申し立てに基づき裁判所が投稿者の情報開示について判断する。手続きは1回で済むことになり、被害者の負担は軽くなる。投稿者が裁判所の情報開示決定に不服があった場合などについても盛り込む。
 心ない内容の投稿で批判を受ければ、傷ついて心身の疲弊にも結び付く。そうした被害の早期救済へとつながる第一歩となり得る。分かりやすく透明性のある制度としなければならない。
 気を付けなければならないのは、表現の自由との兼ね合いである。制度の内容によっては、権力に対する正当な批判や、知られざる内部情報を知らせようとする匿名の情報に圧力をかけようと、新たな手続きが悪用される恐れもある。
 当然ながら、制度の内容を詰めるに当たっては、表現の自由への十分な配慮が求められる。政治や社会に対するごく当たり前の批判であっても、後で責任追及されるのを恐れるあまり、表現を抑制したり、投稿を避けたりする可能性がある。表現の萎縮を招くようなことがあってはならない。
 総務省の有識者会議とは別に、自民党でもネット上の誹謗中傷・人権侵害への対策が論議されていた。自民党の方は、表現の自由への十分な配慮をうたいながら、誹謗中傷への刑罰強化などを盛り込んだ提言を6月に取りまとめている。
 そもそも誹謗中傷が表現という言葉に値する内容かどうかという問題もあるが、自民党の動きは、表現の自由を脅かしたり制約したりする恐れがある点を示している。
 新型コロナウイルスの感染が広がった当初、感染者へのデマと攻撃が広がったのも記憶に新しい。
 誹謗中傷の問題は、表現の自由を享受する私たち自身が、その大切さを改めて考え、守っていく責任を負っていることを突き付けた。そう考えることもできる。

カテゴリー: 社説

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