2020.11.22 08:00

【種苗法改正】農家の懸念と向き合え

 日本で開発された果物などは海外でも人気が高い。それゆえということだろう、優良品種が不正に持ち出されて栽培されている。
 新品種は長い時間をかけて開発される。開発者の権利がないがしろにされてはならない。輸出に活路を見いだす日本農業への打撃も大きい。
 そうしたことを背景とする種苗法改正案が、賛成多数で衆院を通過した。今国会で成立する見通しだ。ただ、農家の負担増への警戒など、慎重論も根強い。3月に通常国会に提出されたが、懸念の広がりに押されて継続審議になった経緯がある。参院での丁寧な説明に基づく審議が実効性を高めていく。
 種苗法は、国や都道府県の研究機関など開発者が農産物の新品種を登録し、販売権などを保護する。
 しかし、海外への持ち出しに対する規制が十分ではなかった。このため輸出産品として期待されるブドウのシャインマスカットの苗木が中国や韓国に流出し、その生産物がさらに東南アジアに輸出されてきた。イチゴやサクランボも持ち出されて栽培されているという。
 改正案では、農林水産省に登録した品種について、その開発者が栽培地域や輸出先を指定できるようにする。さらに、農家が収穫物から種子を取って次の作付けに利用する自家増殖に関して、登録品種では開発者の許諾が必要となる。
 焦点となるのはこの自家増殖の扱いだ。これまでは原則自由だった。許諾制になると、種苗代に許諾料が上乗せされたり、高額化したりするのではないかという懸念がある。自家増殖の制限が農業経営を圧迫しては元も子もない。
 許諾の対象は登録品種だけで、農産物の大半を占める一般品種にはこの規制は及ばないというのが農水省の説明だ。また、許諾料について、公的な研究機関は普及を目的に品種の開発をしており、高額な許諾料を請求することは通常はないとの認識を示す。
 種苗などを巡っては、2017年に制定された農業競争力強化支援法に、公的機関の研究成果を民間に移転することが盛り込まれた。翌年には、民間企業の参入を促すとして、公的機関による稲、麦、大豆の種子の開発や普及を後押しした主要農作物種子法が廃止された。
 民間に主導させようとする思惑は一方で戸惑いや反発を招いた。多国籍企業による種苗の寡占化が進むことで、農家の種代の負担が増えたり権利侵害で訴えられるのではないかという将来不安もくすぶり、農政不信へとつながる一因となっている。
 菅義偉首相は、日本の農産品の輸出を2030年までに5兆円に増やす目標を掲げた。この輸出戦略には知的財産を守ることが不可欠で、その思いは共通している。
 同時に、種苗を取り巻く国内環境を整えていくことも重要だ。バランスのとれた施策で、農家の不安を取り除きながら、地域農業を守ることが求められる。

カテゴリー: 社説

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