2020.11.07 08:37

【動画】土佐備長炭で切り開く未来 安芸市の窯元・近藤さん

最高温度1200度にも達する窯から備長炭を取り出す「窯出し」作業(写真はいずれも安芸市大井甲)
最高温度1200度にも達する窯から備長炭を取り出す「窯出し」作業(写真はいずれも安芸市大井甲)

障害者雇用から居場所づくりへ
 障害者雇用の受け皿を作りたいと、7年前、土佐備長炭の世界に飛び込んだ安芸市の炭焼き職人、近藤寿幸さん(37)が夢を一つかなえた。昨年から知的障害のある男性を受け入れ、窯元「土佐備長炭一(ICHI)」として、二人三脚で製炭に汗を流す日々。コロナ禍で苦難にさらされるが、障害者雇用だけでなく、引きこもりなど生きづらさを抱えた人の「居場所づくりをしていきたい」と、さらなる夢を描いている。



 特別支援学校の臨時教員をしていた近藤さんは、障害者の厳しい就労事情を知り、「雇用の場をつくりたい」と決心。原木の確保や窯出し、炭の選別など細分化された工程があり、障害者就労への可能性を感じた製炭の世界に、正採用教員への道を捨てて飛び込んだ。室戸市の窯元で2年の修業を終え2015年に独立。翌年、自らのブランドとして「土佐備長炭一」を立ち上げた。


 独立から3年ほどは、品質の安定化が難しく経営は苦しかった。安芸市周辺に生える原木は、木が堅く締まって質が安定しやすいウバメガシではなく、より柔らかく製炭が難しいカシがほとんど。それでも、技術を磨き、納得できる高品質な備長炭の販売にこだわってきた。

 客の口コミや紹介、地元商工会などの支援もあり、「自分が営業して契約を取れたのはゼロなのに、周りの人に恵まれて」と、次第に取引先が増加。有名料亭の「京都吉兆」をはじめ、東京や愛知、大阪など大都市圏のフレンチ、イタリアンレストランから、日本料理、ウナギ料理店などに納品するようになった。

西岡栄吉さん(右)に、選別のアドバイスを送る近藤寿幸さん(左)。作業場は明るくにこやかな雰囲気
西岡栄吉さん(右)に、選別のアドバイスを送る近藤寿幸さん(左)。作業場は明るくにこやかな雰囲気

 経営が安定し始めた開業4年目、ある「農福連携」の事例発表会で近藤さんの存在を知り「『一』へ行きたい」とやってきたのが、西岡栄吉さん(45)=安芸市宝永町=だった。

 母方の祖父が炭焼きをやっていたという西岡さん。「自然に囲まれて職人の技を間近で学べる。ここほど楽しいとこはない」と、原木の運搬から窯くべ、窯出しに選別などの作業を担いながら、充実した日々を送っている。


 ところが、西岡さんというパートナーを得て、イギリスやフランスなど海外との取引も決まり、販路を拡大しようとしていた矢先に、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた。海外進出の話が消えたばかりか、取引の8割以上を占めていた大都市圏の需要も冷え込み、売り上げは大幅に減少。現在は7割ほどに持ち直しているというが、「さすがに心が折れそうになった」と近藤さん。

 そんな時「『働く場所から居たい場所になった』と西岡さんが言うてくれて、僕がやりたいのはこれだ」と思ったという。

 安芸市は、引きこもり経験や障害のある人らの就農支援など、農業と福祉が連携する「農福連携」事業の先進地。近藤さんは、製炭を通した「林福連携」として、特別支援学校の校外実習を受け入れ、作業をしやすいまきの製造や販売の準備も進めている。


 いつも明るくひょうきんな西岡さんの「ポジティブさに助けられている」と笑いながら、「たった一つの炭が人と人をつないで輪になっていく。障害のあるなしにかかわらず、生きづらさを抱える人の居場所づくりができたら」と前を向く近藤さん。

 取引先の京都吉兆などから「『火力』『火持ち』『はぜない』『均一な大きさ』と四拍子そろうのは『一』だけ」と信頼も厚い。逆境は続くが、新たな目標に向かって、土佐備長炭で未来を切り開いている。(飯野浩和)

取り出した備長炭に灰をかけて冷ませば完成
取り出した備長炭に灰をかけて冷ませば完成

できあがった備長炭と「ICHI]のロゴマーク
できあがった備長炭と「ICHI]のロゴマーク

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