2020.09.29 08:00

【米最高裁判事】拙速な指名は禍根を残す

 米最高裁の判事を27年間務めたリベラル派のルース・ギンズバーグ氏の死去に伴い、トランプ大統領は保守派のエイミー・バレット氏を後任に指名した。
 判事の就任には上院の承認が必要だ。上院は与党共和党が多数を占めている。公聴会などを経て約1カ月後に迫った大統領選前にバレット氏を承認する見通しだ。
 大統領選や選挙後をにらんだトランプ氏の思惑が透けて見える。
 選挙が迫った時期に、後任をなぜ指名する必要があったのか。野党民主党などは、新たな大統領が決まった後に、判事を指名すべきだったと主張している。トランプ氏は理由を分かりやすく説明すべきだ。拙速な指名は禍根を残す。
 全9人の判事は、任期がない終身制だ。身分が保障されているため、2期8年と任期が決まっている大統領と比べても社会への影響は決して小さくはない。
 ギンズバーグ氏の死去に伴って、保守派5人に対して、リベラル派は3人に減った。バレット氏が承認されれば保守派は6人となり圧倒的な優位となる。
 最高裁が裁定するのは、銃規制や人工妊娠中絶といった米社会で意見を二分する大きな問題ばかりだ。
 バレット氏は、過去の文章などから妊娠中絶の権利を広く解釈することに懐疑的だとの報道がある。
 このため、社会の保守化が一挙に進むことを民主党は警戒している。民主党の支持者だけでなく、共和党の一部の上院議員も新大統領の選出後に後任の判事を指名すべきだと訴えている。
 社会のあり方に影響を与える判事の指名や承認は、国民の総意に基づいて極力慎重に―ということだろう。その考え方はもっともだ。
 最高裁判事の指名を巡っては、民主党と共和党の間で過去に軋轢(あつれき)があった。
 民主党のオバマ政権時の2016年2月、保守派の判事が急死した。それに伴いオバマ氏は中道派の判事を指名したものの、上院で多数を占めていた共和党は審議に応じようとしなかった。
 理由は、同年11月に大統領選が迫っており、「新たな大統領が指名を」ということだった。こうした経緯があるからこそ民主党は今回、大統領選後の判事の指名をトランプ氏に求めていた。
 大統領選は、新型コロナウイルスの影響で郵便投票が増えると見込まれている。投票者が増えれば、多くの民意が選挙結果に反映されると普通は思うだろう。
 しかし、トランプ氏は違うようだ。明確な根拠を示さないまま郵便投票は「不正の温床になる」と繰り返すだけだ。
 さらに、大統領選の結果は「最高裁まで争われる」とも明言している。最高裁に保守派の判事を増やす目的が、そうした理由だとすれば、民主国家のリーダーとして資質が疑われる。

カテゴリー: 社説

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