2020.08.02 08:00

【香港選挙延期】民主主義後退へまた一歩

 民主主義の後退へ、香港政府がまた一歩踏み込んだ。
 林鄭月娥行政長官が、9月に予定されていた立法会(議会)選挙を1年延期すると発表した。新型コロナウイルス感染拡大を理由に挙げているが、香港国家安全維持法(国安法)施行で市民に中国への反発が広がる中、民主派の伸長を阻止したい思惑があるとみられる。
 事実なら民主主義の根幹である選挙制度を恣意(しい)的に扱う愚行であり、許されることではない。
 香港では7月以降、新型コロナウイルスの市中感染が目立ち始めているのは事実だ。1日の新規感染者が100人を超える日も少なくない。とはいえ、コロナ禍の中でも予定通り選挙を行う国はある。仮に延期するにしても、選挙の公正さへの疑義が出るようでは市民は納得できまい。
 実際、選管当局は立候補を届け出た民主派メンバー12人について、国安法を支持していないことを理由に立候補資格を認めていない。
 香港政府や後ろ盾の中国に、民主派躍進への警戒感があるのは確かだろう。「選挙を1年延期した方が国安法への批判が落ち着く」との読みもあるのかもしれない。
 しかし、政治的打算に基づく先延ばしが奏功するだろうか。
 昨年行われた区議会(地方議会)選挙では、民主派が8割を超す議席を獲得し圧勝した。背景には中国本土への容疑者引き渡しを可能とする、逃亡犯条例改正に反対する市民の抗議のうねりがあった。
 今年7月には立法会選挙に向けて民主派が予備選を実施。香港政府は国安法違反の可能性があると威嚇したが、市民はひるまず、主催者目標の17万人を大きく上回る約61万人が投票した。
 国安法によって香港の「一国二制度」を形骸化させようとする、習近平指導部への不満や拒絶の意思が強まっているのは間違いない。
 そもそも国安法について、習指導部は「ごく少数の犯罪分子に対する法律で、一般市民の権利には影響しない」と主張していた。ところが現実には「香港独立」と書いた旗を持っただけで逮捕されたり、令状なしの家宅捜索やパスポートの没収がまかり通ったりしている。
 今また選挙を通して平和的に意見を表明し改革を求めようとする民主派を排除し、選挙自体も一方的に延期する。そんな強権的なやり方で、香港市民を従わせることができるとは思えない。
 香港政府に求められているのは、力で市民を抑え付けることではない。意見の対立する相手と対話し、解決策を探ることだ。市民を抑圧した政権は、歴史の評価に耐えることはできない。
 英国から中国への香港返還を決めた中英共同宣言では、1997年の返還から2047年までの50年間、香港では資本主義を継続し言論、集会の自由など民主主義を保障するとなっている。中国にはこれを守るよう改めて求める。

カテゴリー: 社説

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