2020.07.21 08:00

【観光支援事業】見切り発車は許されない

 政府の対応が迷走し、業界に責任を丸投げするようでは国民は不安が拭えない。やはり一度立ち止まり、事業のあり方を再考すべきである。
 政府はあすから新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ観光の支援事業「Go To トラベル」を、東京都発着の旅行を除外した46道府県でスタートさせる。
 事業は国内旅行代金の50%を国が支援。35%分は代金から割り引き、15%分は旅先で買い物や飲食に使えるクーポンを配る。割引事業を先行させ、8月上旬の開始予定を夏休みに合わせて前倒しした。
 コロナ禍で観光需要は落ち込み、観光、宿泊業界は大打撃を受けている。地方には観光業を地域経済回復への糸口にしたい思いも強い。国の重点的な支援自体は否定しない。
 しかし、未知のウイルスの感染状況は時々刻々と変化している。
 東京の感染者数は7月に入って3桁の日が続き、過去最多の300人近くに達する日も出ている。地方では東京に滞在して帰ってきた人の感染確認例も目立っている。
 政府は事業の前倒し実施を決めた後に急きょ、都発着分などについて対象外にすると表明。また実施直前の20日になってキャンセル料を補償する方針を固めた。
 いずれもドタバタの方針転換で、泥縄の対応と言わざるを得ない。
 そもそも経済優先で突き進む政府の判断は矛盾をはらんでいる。緊急経済対策に関する4月の閣議決定には、事業の実施時期は「感染症の拡大が収束し、国民の不安が払拭(ふっしょく)された後」と明記されていた。いまは適正な時期ではあるまい。
 東京だけの除外も科学的根拠が不透明だ。7月は首都圏各県や大阪府などでも緊急事態宣言の解除後、最多の感染者が確認される日が出ている。都市部との往来を促進して大丈夫なのか。政府の説明はない。
 感染拡大の抑止を民間に丸投げするような姿勢も疑問が大きい。
 政府は、重症化しやすい高齢者、感染が目立つ若者の団体旅行、大人数の宴会を伴うツアーを割引商品として発売するかは業者の判断に委ねる方針だ。しかし年齢などの線引きが不明確で、これでは当の業者や利用者も混乱するだけだろう。
 共同通信の直近の世論調査では、観光支援事業は「全面延期すべきだった」とする回答が6割を超えた。与党内にも「地方で感染者が増えれば人災となる」という懸念が広がっているのは当然だろう。
 全国知事会では、県内や感染の少ない近隣地域を優先し、段階的に対象範囲を広げるべきだとする慎重論が相次いだ。野党は事業の当面延期や予備費による観光、交通事業者への支援を主張している。政府はこうした声も踏まえ、いま一度慎重に検討すべきではないか。
 人の命が関わる問題だ。感染拡大の抑止と経済回復のバランスは難しいとはいえ、見切り発車は許されない。政府に科学的根拠を持った判断と十分な説明を求める。

カテゴリー: 社説

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