2020.06.27 08:00

【拉致問題】主体性持ち局面打開を

 北朝鮮による日本人拉致問題の膠着(こうちゃく)状態をあらためて思い知る証言といえる。
 ボルトン前米大統領補佐官が出版した回顧録で、拉致問題に関する米朝交渉に言及している。2018年6月にシンガポールで開かれた史上初の米朝首脳会談の際、拉致問題の解決に向け合意文書に文言を盛り込もうとした経緯を明らかにした。
 文書は北朝鮮側が受け入れず、最終的にはトランプ米大統領が短い共同声明案の内容で十分だと判断。拉致問題を外し、言及しない声明案で合意したという。
 事実ならば、対北朝鮮外交で米国頼みが目立ってきた安倍晋三首相の戦略の限界もうかがわせる。
 米朝交渉の不調もあり、首相は昨年5月以降、日朝首脳会談の無条件開催を目指す方針に転じている。北朝鮮側に応じる気配はないままだが、やはり日朝間の問題は日本が主体性を持って局面を打開し、最終的には首相が直接交渉しなければ解決しないだろう。
 拉致問題は02年の日朝首脳会談で、北朝鮮側が初めて拉致を認めて謝罪した。政府が拉致被害者として認定している17人のうち5人が帰国。北朝鮮は残る8人は死亡、4人は未入国と主張しているが、日本側は受け入れていない。
 第2次安倍政権下で北朝鮮が拉致被害者の再調査を約束した14年5月の「ストックホルム合意」は、金正恩(キムジョンウン)体制が初めて拉致問題に取り組む合意でもあった。
 しかし、16年から北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を断続的に行ったため日本は独自制裁を強化。北朝鮮は調査を全面中止した。これ以降、日朝交渉は袋小路に入り、解決の糸口すら見えていない。
 13歳で拉致された横田めぐみさんの父で、拉致被害者家族会の初代代表を務めた横田滋さんが今月、87歳で亡くなった。
 めぐみさんの拉致から43年。北朝鮮の非道な国家犯罪と向き合わされ、被害者奪還に半生をささげてきた象徴的な人物の生前に悲願を達成できなかったことは、政府の取り組みの遅さをあらためて浮き彫りにしている。
 かねて拉致問題解決を政権の「最重要課題」と強調してきた首相は、「断腸の思い」と述べた。
 ただ、家族会代表の飯塚繁雄さんは高齢化した被害者家族が亡くなる現状を「当たり前の流れだ。何も手を打たないできた結果だ」と批判している。こうした悲痛な声を安倍政権は重く受け止めるべきだ。
 ボルトン氏の回顧録を巡っては、菅義偉官房長官が内容や信ぴょう性への言及は避けながら「米国と緊密に連携すると同時に、わが国自身が主体的に取り組むことが重要だ」と述べている。
 米国をはじめ国際社会とも連携しながら、日本として直接対話の糸口を探る努力を重ねる必要がある。7年半に及ぶ長期政権は国民の目に見える成果を問われている。

カテゴリー: 社説

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