2020.06.26 08:00

【新出生前診断】妊婦支える体制づくりを

 医療技術の進歩は、生命倫理のさまざまな問題をはらんでいる。
 「新出生前診断」もその一つだろう。妊婦の血液から、おなかにいる赤ちゃんの3種類の染色体異常(ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミー)を調べることができる。
 今のところ、カウンセリング体制などが整った大学病院などの大規模な認定施設でしか行えない。日本産科婦人科学会(日産婦)は実施の指針を改定し、凍結していた認定施設の「拡大」に再び動きだした。
 この検査では、「陽性」の診断が確定した妊婦の約8割が人工妊娠中絶を選んでおり、「命の選別につながりかねない」と指摘されてきた。
 短絡的に「陽性=中絶」が行われないように、認定施設の「拡大」も慎重に検討されなければならない。
 妊婦に十分な情報提供を行い、検査の前後を継続的にサポートするような体制をつくる必要がある。
 何よりも重要なのは、おなかの赤ちゃんに病気や障害があると分かっても、安心して産んで育てられる社会をつくることだ。子どもと家族を支える施策を充実させ、多様な人々が共生する社会を目指したい。
 新出生前診断は2013年に始まった。日産婦の指針に基づき、原則35歳以上の妊婦が検査を受けられる。高齢出産になるほど、胎児の染色体異常のリスクが高まるためだ。
 認定施設は全国で109カ所で、高知県では高知大学医学部付属病院に限られる。高齢出産の増加で検査のニーズは高いが、認定施設は少なく時間もかかっている。
 そこに営利目的で、認定外のクリニックが参入している。ルールを守らず、検査の「陽性」判定を伝えるだけで相談に応じないなど、妊婦が苦しむトラブルが多発している。
 日産婦は事態を打開するため、認定施設の要件緩和に動いたことがある。しかし、日本小児科学会や日本人類遺伝学会が「不十分な体制の下に安易に行われるべきではない」と慎重な対応を求めた。19年6月にいったん「拡大」は凍結された。
 今回、日産婦が妊婦の支援体制を整え、小児科医との連携も強める内容を盛り込んだことで、両学会の合意が得られた。実際に「拡大」するかどうかは、厚生労働省の検討部会の判断を待つとしている。
 この検査で「陽性」となれば、妊婦は命を巡る重い選択に直面する。激しい葛藤に襲われるだろう。
 検査を決める前に、染色体異常で起こる疾患や、それがある子どもの育児について、よく知っておく必要がある。さまざまな条件を十分に考えた上での「産む」「産まない」の決断は尊重されるべきだ。
 新出生前診断の制度には、当事者の意見も反映させたい。この検査の診断を受けて妊娠を継続した人としなかった人、障害のある子どもを育てた人、高齢出産の不安をよく知る人ら幅広いだろう。
 「拡大」を最終判断する厚労省の検討部会は、その意見を取り入れながら議論を尽くさねばならない。

カテゴリー: 社説

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