2020.05.29 08:00

【京アニ放火殺人】動機解明し社会で共有を

 激しく立ち上る黒い煙、窓からは真っ赤な炎が噴き出す、建物の周囲で懸命に作業する消防関係者―。
 昨年7月、京都市のアニメ制作会社「京都アニメーション」の建物が放火された際、テレビなどで見た惨状を多くの人が思い出しただろう。
 平成以降で最悪となる36人が犠牲になったこの事件で、京都府警は殺人や現住建造物等放火などの疑いで青葉真司容疑者を逮捕した。
 容疑者本人が重いやけどを負い、治療に加えて新型コロナウイルスの感染拡大の影響で発生から10カ月後の逮捕となった。
 亡くなった人のほか、事件では30人以上が重軽傷を負っている。ストレッチャーに横たわったまま移送される容疑者の様子が報道された。その姿を見た遺族らの思いは察するに余りある。
 青葉容疑者は事件前に下見を繰り返し、ガソリンや刃物を用意するなど周到に準備していたことが京都府警の調べで分かっている。
 逮捕前には「小説を盗まれた」と話し、「学園もの」など複数の小説を京アニに応募していたという。また逮捕された後は、「(京アニに)恨みがあった」との趣旨の供述もしたようだ。
 しかし、身近な家族や友人、仕事仲間を突然失った遺族らの中からは「なぜ」「どうしてそこまで」という声が出ている。遺族だけでなく、悲惨な映像が目に焼き付いた私たちも感じている疑問だ。
 現在42歳の青葉容疑者は、経済的に恵まれない家庭で育ち、20代以降は1人暮らしをしながら非正規の職を転々としていた。コンビニ強盗事件を起こしたことがあり、その際は「社会に嫌気が差した」と動機を述べていたという。
 事件前のそうした行動や短い供述、生活歴などからはこの凶行の動機や詳しい背景は分からない。
 2001年の大阪の校内児童殺傷事件、08年の東京・秋葉原の無差別殺傷事件など、多くの命が理不尽に奪われる事件が過去に起きている。1年前には川崎市で児童ら20人が殺傷される事件もあった。
 事件ごとに背景は異なり、動機もさまざまだ。今回の事件にはどんな背景があり、なぜ青葉容疑者が事件を起こすに至ったのか。捜査当局は粘り強く明らかにしてほしい。
 それらの情報を社会で共有すれば次に起こるかもしれない事件を防ぐヒントが得られる可能性がある。
 事件後、京アニを支援する輪が広がった。作品の舞台とされる「聖地」がある自治体だけでなく、アニメ制作者の団体や企業、海外からも義援金が集まった。質の高いアニメが多くの人に支持されている証しで長く支えていきたい。
 「家族にとって事件は終わっていません。まだ話せることはありません」。容疑者の逮捕後、ある遺族はこんなコメントを出した。残された者の喪失感は計り知れない。遺族らの心のケアなど公的なサポートも手厚くする必要がある。

カテゴリー: 社説

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