2020.05.28 08:00

【SNS中傷】見過ごせない「無法地帯」

 テレビ番組での言動から会員制交流サイト(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷を浴びたプロレスラー、木村花さんが亡くなった。遺書のようなメモが見つかっており、自殺とみられる。
 インターネット上での中傷やいじめの深刻化が指摘されて久しい。悲劇を繰り返さないためにはどうすればいいのか。社会全体で考えなければならない。
 木村さんが出演していた「テラスハウス」は、男女6人のシェアハウスでの生活を描く。台本も指示もなくドキュメンタリーに近いというが、各出演者の役割は次第に決まってくるとも言われている。
 木村さんへの匿名の誹謗中傷は、プロレス用衣装の洗濯を巡って同居の男性に憤った場面がきっかけとなった。ただし、それはプロレスで悪役が板についていた彼女が、役割を全うしたようにも映る。
 番組の作り方に問題はなかったのか。SNSでの「炎上」を番組側はどう受け止め、どう対処したのか。テレビ局はしっかり検証し、説明する必要があるのではないか。
 法務省によると、ネット上での人権侵犯事件は2013年に900件台だったのが、近年は2千件を超えている。低年齢化も懸念される。全国の小中高校などでは18年度、パソコンや携帯電話を介した「ネットいじめ」が1万6千件を超え、高校では約2割を占めた。
 ネット空間が誹謗中傷の「無法地帯」のような状況は、看過し難くなってきている。高市早苗総務相は悪意ある投稿を抑止するため、制度改正を検討すると表明した。
 現行のプロバイダー責任制限法でも、被害者はネット接続事業者(プロバイダー)に投稿者の氏名や住所、メールアドレスなどの開示を請求できる。ただし、権利侵害が明らかでないといった場合、開示されないケースも多い。
 そこで迅速な開示に向けた方策を探るほか、電話番号を開示対象に加えることも検討する。携帯電話の番号は、それを使ってやりとりするショートメッセージサービス(SMS)のアドレスともなるため、開示を認めた地裁判決もある。
 いったん書き込まれた情報は瞬時に拡散し、完全に消し去ることは難しい。問題のある投稿者を速やかに特定することは、被害の救済や損害賠償請求にも有効だろう。匿名だからといって、発言への責任がなくなるわけではない。
 一方で、「表現の自由」や「通信の秘密」を損なわないようにする配慮も必要だろう。いたずらに投稿者の特定が進むようになれば、内部告発を萎縮させる恐れも出てくる。
 憲法が保障する権利を尊重しながら、言葉の暴力にさらされた被害者の人権も守る。双方を両立させるための丁寧な議論を求める。
 増え続けるネット上での人権侵害を防ぐには、制度改正とともに教育の役割も重要だ。ネットの危険性を判断し、使いこなす力を育む取り組みが欠かせない。

カテゴリー: 社説

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