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2020.05.21 08:35

県内ガソリン3日持たず こまめな給油で備えを 【地震新聞】

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(2020年5月21日掲載の記事です)

 南海トラフ地震の発生後、道路の復旧や救命活動などに欠かせないのがガソリンなどの燃料だ。高知県が策定した燃料確保計画によると、県外からの物資支援が本格化するのは被災の4日目以降。県内ではその間の必要量に対し、ガソリン853キロリットル、重油954キロリットルが不足する見込みだ。支援が届くまで燃料を“自前”で賄うためには、備蓄施設の整備のほか、自家用車のこまめな給油など県民一人一人の備えも必要となる。

停電時の給油に備えて、ガソリンスタンドに設置された自家発電機(高知市内)

 東日本大震災では、強い揺れや沿岸に押し寄せた津波で東北・関東地方にある計6カ所の製油所が操業停止に。両地方の石油精製能力は震災前の7割に落ち込み、東北地方の4割のガソリンスタンドが営業できない状態に陥った。

 震災から1カ月後の4月中旬には、被災県のスタンドの営業率が9割ほどに回復。ただ、停電や在庫切れにより、スタンドには給油を求める車の渋滞が発生し、灯油用のポリタンクを手にした被災者が列をなした。

 当時、高知新聞の取材に答えた宮城県内の高齢夫婦は「朝4時半からスタンドに並んだが、2時間待った末に『公用車専用』と断られた。別のスタンドでさらに1時間待ったけど、ガソリンがないと言われてあきらめた」と疲れ果てた様子で話した。

  ■ ■  
 東日本大震災の教訓を生かすため、高知県は2018年5月、燃料確保計画をまとめた。

 計画策定にあたっては、公用車や道路の復旧作業を行う重機、物資輸送用の車両、自家用車などが必要とする燃料の必要量を調査。県外からの支援が本格化するまでの3日間、県内の備蓄分で供給できる量との過不足を割り出した。

 高知市のタナスカ地区、中の島地区の石油・ガス基地は津波で浸水する可能性があり、供給可能量から除外して調査した。

 調査結果によると、マグニチュード(M)9級の最大クラスの揺れ・津波が発生し、スタンドのガソリン貯蔵量が「仕入れのタイミングまで減少」している“最悪”の状況を想定した場合、重油とガソリンは3日以内に枯渇することが分かった。

 重油は津波の浸水地域で海水をくみ出す排水機場やポンプ場での需要が見込まれるため、県全体で954キロリットル不足。ガソリンも浸水域外の一般車両約30万7千台(3日間の必要量を1台当たり10リットルで計算)を前提にすると、853キロリットル足りなくなる。軽油と灯油は3日分以上の余裕がある。

 これまで100~150年間隔で起きてきたM8級の場合、軽油、灯油、重油は3日分以上の供給が可能。一方、ガソリンは浸水を免れる一般車両が最大クラスの地震時より多い約44万台と想定されるため、不足量が1541キロリットルに拡大するとの結果が出た。

  ■ ■  

 ガソリンが大幅に不足する事態に備え、高知県が呼び掛けているのが「燃料が半分になる前の満タン給油」だ。

 高知県はガソリンタンクの残量が半分になった時に満タン給油すれば、空の状態から給油するのに比べて、1台当たりの残量が15リットル増えると試算。その場合、最大クラスの津波浸水域外にある車両全体の確保量は約4600キロリットルに上り、不足分を大きくカバーできることになる。

 このほか、停電時でもスタンドが給油を継続できるように、自家発電機や可搬式ポンプを備える「災害対応型給油所」の拡充も進めている。

 発電機などにかかる費用は県と市町村が2分の1ずつ負担。補助対象はM8級で想定される津波浸水域外のスタンド計256カ所で、2020年3月末までに114カ所に整備されているという。

 高知県危機管理・防災課は「地震時に医療や道路復旧などに支障を来さないために、消防施設などへの燃料備蓄も進めていく。緊急車両への給油を優先させるためにも、県民一人一人が自家用車へのこまめな給油に意識を持って取り組んでもらいたい」と呼び掛けている。

地震の揺れによる破損を防ぐため、柔軟性のある部材でつながれた配管(高知市五台山のタナスカ石油基地)

タナスカ石油基地 供給維持へ津波対策急務
 県内で流通する石油系燃料の9割は、高知市のタナスカ地区、中の島地区の油槽所から供給されている。南海トラフ地震では津波で1~3メートル浸水することが想定されており、官民を挙げて“供給源”の機能維持に向けた対策が進められている。

 タナスカの石油基地に設置されている燃料タンクは日本オイルターミナルが27基、出光興産が9基の計36基。海路で運ばれた燃料はタンクに貯蔵され、タンクローリーで県内のガソリンスタンドなどに輸送されている。

 日本オイルターミナルは2014年2月、事務所建屋を耐震化。2階部分には免震装置を施した自家発電機を設置し、停電時でも最大24時間は燃料を出荷できる態勢を整えた。

 タンクには燃料の漏れ出しを防ぐ緊急遮断弁が設置されているほか、中央部分に支柱を設けて地面と固定したり、周囲にアンカーボルトを取り付けたりして耐震性を確保。タンクのバルブ近くをつなぐ配管は柔軟性のある部材でつなぎ、揺れによる破損を防ぐ対応を取っている。

 そうした「揺れ」対策が進む一方、懸念されるのは津波やそれに伴う漂流物の影響だ。

 高知県のシミュレーションによると、浦戸湾周辺には津波によって建物のがれき約45万トンなどが漂流。タナスカの石油基地には建物や車両、船舶などの一部が衝突する可能性がある。

 津波や漂流物による被災を低減するため、国や県は浦戸湾周辺の堤防でかさ上げや液状化対策を施す「三重防護」を進めている。タナスカ周辺は国が直轄事業として整備を行う予定。完成時期は未定で現在、基本設計を実施している。

 県は完成後の堤防上部に防護柵を設置し、基地内に漂流物が浸入するのを防ぐ対策を検討中。また、タナスカ周辺は地震後の津波注意報などが解除された後、漂流物などの除去を1週間以内に完了させ、海路による燃料輸送ルートを確保したい考えだ。

 日本オイル―高知営業所の山本秀昭所長(61)は「液状化などによって護岸の損壊や地盤の変形が起きた場合、現状の対策では対応しきれない恐れがある」とし、「三重防護」の完了を急ぐ必要性を訴えている。

《備防録》燃料確保も自助で
 国は南海トラフ地震の想定死者数などから割り出した被害規模について、高知県など四国地方を3割、中部地方を4割、近畿地方を2割、九州地方を1割と見込む。地震後は被災地からの要請を待たず、西日本の広範囲に人員や物資を集中投入する計画だ。

 高知県への燃料支援は、瀬戸内地方から陸路で輸送されることになるが、道路網の寸断などを想定すると、県内にくまなく燃料が行き渡るには相当の時間を要するだろう。

 人命救助と同様、燃料の確保も「公助」に頼るには限界がある。自家用車へのこまめな給油を意識するほか、カセットこんろや冬用の衣類を持ち出し袋に入れておくなど、自助の備えが災害を乗り切る鍵となる。(海路佳孝)


バスツアーで訪れた高岡郡中土佐町の津波避難タワーで炊き出し訓練を行う住民ら(2018年7月=田中照久さん提供)

《防災最前線》「楽しむ防災」実践 天神町自主防災組織(高知市)
 「これからの地域防災を支える、私たち若い世代に関心を持ってもらいたい」。そう話すのは、高知市の天神町自主防災組織の田中照久会長(44)。活動のモットーは「楽しむ防災」の実践だ。

 自宅は高知市六泉寺町。自身がカラオケ店を営む天神町に自主防災組織がなかったことから、「自分たちの命は自分で守る意識を広げよう」と2012年に組織を立ち上げた。

 防災訓練を実施する際は、バスツアーを組んで県内各地に足を運ぶ。これまで高知市種崎や香南市夜須町のヤシィ・パーク、高岡郡中土佐町などを訪れ、炊き出し訓練を行ったり、現地の自治体担当者らから防災対策を学んだりしてきた。

 田中会長は地元以外の対策を知る意義について、「いつどこで地震に遭うか分からない。楽しく防災を学んでもらうことはもちろん、どこにいても避難行動を取ったり、炊き出しに関わったりする意識を持ってもらうためです」と話す。

 活動に興味を持ってもらおうと、ツアーや訓練の様子を写真に収め、個人のブログやフェイスブックで発信している。

 2016年からは、天神町など15の自主防災組織でつくる潮江小校区防災連合会の会長も兼ねている。今秋の地区運動会では、防災関連の種目を取り入れることを企画中という田中会長は「地域のコミュニティーの力を高めることで、誰もが率先して活動に関われる雰囲気をつくっていきたい」と意気込んでいる。      


《そな得る》LPガス 流出対策強化
 東日本大震災では、約20万本のLPガスボンベが津波で流出したと推計される。ボンベの転倒や流出は火災などの二次被害を発生させる恐れがあり、高知県内では震災以前から、LPガスの災害対策に力を入れてきた。

 LPガスの導入世帯には液化石油ガス法に基づき「マイコンメーター」の設置が義務付けられている。このメーターは震度5以上の揺れや配管の損傷を検知すると、自動でガスを遮断する仕組みが取り入れられている。

 県内のガス事業者199社が加盟する高知県LPガス協会は2006年から、独自の取り組みとしてガス放出防止型の高圧ホースの導入に力を入れてきた。

 揺れなど一定の力でホースが引っ張られると、ボンベとつながるバルブ部分が遮断される仕組み。ホースの交換に併せて導入を進めてきたため、現在はほぼすべての世帯で導入済みという。

 さらに、流出や転倒を防ぐため、ボンベの上部、下部にチェーンを巻き付けて壁に固定。落下物などに備えてバルブ部分を覆うプロテクターを設置するなど、多重の災害対策を講じている。

 ボンベや配管が世帯単位で設置されるLPガスは、電力や都市ガスに比べて迅速な復旧が可能とされる。炊き出しや自家発電機の燃料として使用することもでき、高知県LPガス協会は「ガスが遮断されてもマイコンメーターの操作で簡単に復旧できる。避難生活での活用方法を学び、被災後の生活再建に役立ててほしい」としている。

高知のニュース いのぐ 地震新聞

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