2020.05.18 08:00

【「自粛警察」】正しく恐れているか

 私たちは新型コロナウイルス感染症という「災害」を正しく恐れることができているか。あらゆる角度から考えてみなければならない。
 特別措置法に基づく緊急事態宣言であっても、日本の場合は諸外国のような外出禁止令ではなく、自粛の「要請」である。それでも感染の拡大が鈍化傾向に転じているのは、日本社会特有の同調圧力の強さが作用しているのかもしれない。
 ところが、それが高じてか、私的な立場で他人を厳しく攻撃する「自粛警察」と呼ばれる行為も問題になっている。
 千葉県内で高齢の女性が営む駄菓子屋は4月下旬、何者かに「コドモアツメルナ。オミセシメロ」という紙を貼られていた。店は1カ月前から休業していた。
 東京都内でも自主休業し、許容された無観客ライブをネット配信したダイニングバーで「次発見すれば、警察を呼びます。近所の人」という貼り紙が見つかった。
 徳島県では、県外ナンバーの車が投石やあおり運転といった嫌がらせを受ける事例が相次いだ。行政は「県内在住者です」という表示を車に貼るよう呼び掛け。それがまた「差別の助長行為」と批判される事態になっている。
 感染拡大を危惧し、地域や家族を守ろうという正義感もあるのかもしれない。ただし、表れた行為は行き過ぎた私的制裁、もしくは犯罪そのものである。不当な同調圧力といわざるを得ない。
 感染者や、その周辺への攻撃も絶えない。
 クラスター(感染者集団)が発生した京都産業大学には、「大学に火を付ける」「殺す」などと危害を加えることを示唆する電話やメールが相次いだ。無関係の学生や教職員が差別的な言動を受けるケースも頻発したという。
 感染が拡大していた欧州を旅行した学生には確かに油断があっただろう。しかし、脅迫めいた行為や、無関係の学生まで巻き込む差別は、やはり過剰な反応である。
 最前線の現場で感染症と闘っている医療従事者と、その家族も差別や偏見にさらされている。
 保育園の子どもの預かりや、タクシーの乗車を拒否された事例などが報告されている。感染者が出た兵庫県内の病院では、職員に「濃厚接触者ではない」とする証明書を発行したケースも報じられた。
 差別や偏見が医療現場の疲弊を生み、人材の流出を招けば、医療崩壊が起きかねない。専門家は「中傷や差別は巡り巡って自分の命を脅かす行為になる」と指摘する。
 先が見えない未知のウイルスとの闘いに社会のいら立ちや疑心暗鬼は募っていよう。ただ、他者への攻撃で人と人が傷つけ合う社会の分断は避けなければならない。
 コロナとの闘いは長丁場になるといわれる。ならば、なおさら「正しく恐れているか」を常に自戒し、是正していきたい。

カテゴリー: 社説

ページトップへ