2020.05.12 08:00

【検察定年延長】法案成立を急ぐ必要ない

 新型コロナウイルス対策が急を要する中、国会で急ぎ成立させなければならない法案ではない。
 検事長らの定年延長を可能にする検察庁法改正案のことである。政府、与党は週内にも衆院を通過させる方針だが、三権分立を脅かしかねない内容をはらんでいる。拙速は許されない。
 検察庁法は検察官の定年を検事総長は65歳、それ以外の検事長らは63歳と規定している。延長については規定していなかった。
 改正案では検事総長以外も65歳に引き上げる。63歳に達した幹部は役職を降りる「役職定年制」も導入する。看過できないのは、内閣か法相の判断によって役職の延長を可能とすることを盛り込んだ点だ。
 成立すれば検察人事に政権が介入する道が開かれよう。政権に近い幹部が長期間、検察を動かす立場に居続けることもできるだろう。政治家も捜査対象とする検察の政治的中立性を脅かし、司法の独立を揺るがす恐れがある。
 そもそもこの問題がクローズアップされたきっかけは、東京高検の黒川弘務検事長が63歳になる直前に定年の半年延長が閣議決定されたことだった。官邸と親密とされる黒川氏の、次期検事総長への就任をにらんだ措置とされる。
 検察庁法に規定がないため、安倍晋三首相は「(退職で公務運営に著しい支障を生じる場合に定年を延長できる)国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と国会で答弁している。
 検察庁法改正案は、この「法解釈の変更」を後付けで法制化し、つじつまを合わせるようなものではないか。歴代政権が国会でも説明し定着してきた法解釈を、時の内閣の一存で都合よく変更するのは法治国家として極めて危険である。
 無理に無理を重ねるような手法が国民に理解されるはずもない。
 共同通信の3月の世論調査で、黒川検事長の定年延長を巡り6割強が「納得できない」とした。コロナ禍で集会などが開きにくい中でも、会員制交流サイト(SNS)のツイッター上で抗議する市民や著名人らのツイートが相次いでいる。
 検察庁法改正案は、国家公務員の定年を65歳へ段階的に引き上げる国家公務員法改正案と一緒に、「束ね法案」として提出されている。安倍首相は「高齢期の職員の豊富な知識、経験を最大限活用する」と意義を強調する。
 それも大切なことだろう。しかし法の支配に関わる検察官の定年延長は切り離して、より慎重に審議するべきだ。
 改正案は新型コロナ特別措置法に関する質疑もある内閣委員会で、コロナ対策と同時並行で審議されている。国民が注目し、内容を理解するに十分な審議が尽くされるのか。疑問を禁じ得ない。
 「どさくさ紛れ」「火事場泥棒」といった批判がつきまとう審議では将来に禍根を残す。

カテゴリー: 社説

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