2020.05.01 08:00

【9月入学】国民的議論を経なければ

 新型コロナウイルスの感染拡大で学校の休校が長期化する中、新学期を5カ月遅らせる「9月入学制」案が急浮上してきた。
 年間の学習課程をこなせない恐れが出てきていることが大きい。一方で4月からの年度制との整合性をどうするのかなど課題は尽きない。
 慎重かつ幅広い国民的議論が不可欠だ。
 9月入学制は高知県の浜田省司知事ら有志の知事17人が、政府に検討を要請している。公立学校の休校が長引く半面、私立校や地域によっては再開している学校もある。このままでは学力格差が生じる懸念があるためだ。
 欧米などでは秋入学が一般的に行われている。このため日本もこれを機に、「世界標準」に合わせるべきだとの主張もある。
 確かに今は入学時期が異なるため日本の学生は海外へ留学しにくく、海外から日本への留学生も受け入れにくい。日本が9月入学に踏み切れば国際交流が活発となり、有能な人材の育成にもつながることが期待されよう。
 しかし、ハードルは高い。
 9月入学で卒業の時期が夏になると、多くの企業や官公庁で4月に新卒者を一括採用する雇用慣行がネックとなる。政府や自治体の会計年度ともずれが生じる。学校教育法や地方自治法の改正も必要とされる。社会システム全体の大変革を迫るものとなろう。
 過去にも大学への9月入学制導入を促進させようとする動きが政財界などに見られたが、そうした課題を前に実現しなかった経緯がある。
 今年9月から新制度を実施する場合、それまでの短期間に多くの課題をクリアできるだろうか。緻密な制度設計なしに見切り発車し、児童生徒や学生、保護者ら当事者をはじめ社会に混乱を招くことがあってはならない。
 9月入学を巡る教育改革はかねて安倍晋三首相の持論でもあり、今回も「前広にさまざまな選択肢を検討したい」としている。ただし、知事会の中にも「コロナ対策と絡めるには飛躍しすぎだ」「どさくさに紛れて導入すべきではない」といった慎重論がある。
 国民が冷静に判断できるようにするためにも、メリットとデメリットを比較検討した丁寧な議論が要る。
 それとは別に急がれるのは、子どもたちに学習面の遅れが出ないよう「学ぶ機会」を保障することだ。
 国は自宅などで学習できるオンラインによる遠隔授業も推奨している。しかしパソコンなどの機器がなかったり、インターネット環境が十分でなかったりする家庭も少なくない。国や自治体は教育基盤の整備に努めなければならない。
 9月入学制は、日本が検討しなければならない大きな課題には違いない。ただし新型コロナの終息が見通せない今、学力格差を生じさせないためにまず、できる手だてから尽くしていくことが大切だ。

カテゴリー: 社説

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